まずは藤竜也を起用したことに大拍手。
藤竜也という人、個人的には好きな俳優で憧れに値するような人。テレビドラマ『プロハンター』のヘインズ&ジーンズを真似したくらい。ただ、自分の中に居る松田優作、ショーケンと少し差が出てくるのは彼の演技で、佇まいこそ雰囲気があるけどカッコつけ過ぎという印象もあった。下手な俳優と言ったら言い過ぎだが、あまり演技に期待しない感じの俳優だった。しかし、彼はいまだに演技の世界に生きている。そして、今日こんなに素晴らしい演技を見せられたらほんと拍手喝采だ。この演技、日本が誇る俳優だと言えるし、賞を獲ったのも当然だと思う。若かりし頃の彼を知ってる身からすると、あの瞬発力がボケ老人を演じながら出せるのが凄いと思った。あの瞬発力、分かりにくい表現だけど、グッと身体に力が入って腹から声を出すってのは藤竜也さんの一番光る演技なんだよなぁ。
さて、この映画。
何とも形容しがたい映画で、題材が高齢者問題ということもあって社会派で括られるかもしれないが、十分に商業娯楽映画だと言える。ちゃんと面白い。商業娯楽映画ってのは冒頭で恐らくそれは分かると思う。題材のイメージだけで見に来た者たちにも、変に構えるなって感じのファーストシーンだから、それはこの監督のサービス。いや、監督の素晴らしいリーディングだと思う。あ、この監督は間違いないタイプだと思った。
商業娯楽映画と言うのも、サスペンス仕立てにしてるところは非常に上手い。ノーランがメメントでやった様に記憶障害なんかを持ち出さずともボケはサスペンスを作り出すのに打ってつけの要素だ。恐らく、これは今後本当に娯楽作品にボケを使ってくる作品が出てくるだろう。
まぁ、こう書いてきたものの、娯楽映画だ、サスペンスだ、と言うのは映画の作りが上手いということを言いたいだけで、映画本編をそれだけで括ったらあまり良くないかもしれない。すいません。
この映画の価値は、やはり、ある特異な家族の姿を描くヒューマンドラマにある。特異というが、その特異の中に我々見ている者達に数多くの考えさせられる所も多く、結局は終始前のめりにさせられる。
藤竜也の父と森山未來の息子。藤竜也の夫と原日出子の妻。この二極が映画の中心だけど、ネタバレじゃなくてこれから見ていただく人にも頭に入れて見て貰いたいのが、藤竜也のマチズモに注目して貰いたい。これはマッチョの愛も踏まえて。肯定も否定もしないその姿を全編を通して感じてみて!
藤竜也が演じるインテリに色んなものが詰まっていて、それは本当に凄まじいくらいの情報力。人間の凄みに圧倒されたってのが私自身の直接的な感想。