温かみのある音楽や、自然光が映える撮影、丁寧で過不足ないテンポ感といった要素が今作を魅力的で、味わい深いものとしていることは間違いない。しかし、何よりも今作を名作たらしめているのは、“年齢を重ねたふたりの人間”そのものだろう。
積年の人生の深みに勝るものはない。老夫婦として人生の最終章を日々刻んでいるふたりの登場人物を演じたのは、共にアカデミー賞を2度ずつ受賞しているマイケル・ケインとグレンダ・ジャクソン。ふたりは『愛と哀しみのエリザベス』(1975年)以来50年ぶり2回目の共演であり、2回目の夫婦役となった両名にとって、今作は俳優人生最後の作品となった。現在91歳のケインは今作をもって俳優引退を発表、ジャクソンは今作の英公開前だった2023年6月15日に享年87歳で逝去した。
ここまで重ねてきた人生、人間性、演技経験すべての深みが、ふたりの佇まいや発される一言一言の響きから感じられる。そんな感覚を今作はたしかに感じさせた。
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