龍生

52ヘルツのクジラたちの龍生のネタバレレビュー・内容・結末

52ヘルツのクジラたち(2024年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

「52ヘルツのクジラの鳴き声はあまりに高音で、他のクジラたちには聴こえない。だから世界で1番孤独なクジラって言われてるんだ。」

杉咲花演じる貴瑚は病気になった義父の介護を母から強いられ、毎日介護をするだけの生活を送っていた。母に「お父さんじゃなくて、あんたが死ねばよかった」と言われ、自殺をしようとしていた所を、志尊淳演じる安吾に助けられ、新しい人生を生きようと胸に誓う。
この過去の回想シーンと共に現在の貴瑚の物語も描かれていく。そして過去の自分を捨て、小さな町で生きる貴瑚は1人の少年と出会う。彼は若くして出産をした母に捨てられ、虫と呼ばれて生きてきた。家族に見放されたという自分と似た境遇を持つ少年を放っておくことができず貴瑚は少年を救うために動き出す。

ココ最近見た映画で1番感動したし、感情移入が凄くしやすかった。なんと言ってもキャストの演技に癖がなく、リアルが描かれていたのが良かった。
西野七瀬の演技には驚かされた。クズなシングルマザーを完璧に演じてた。圧の強い口調と怒鳴り声が怖かった。

安吾の結末があまりにも辛くて、涙が出てしまった。女性から男性になっていた安吾は貴瑚を幸せにすることは自分には出来ないと思い、ただひたすらに貴瑚の幸せを願うことしか出来なかった。そんな事実が明かされた直後のお風呂での自殺。母の焦り声と貴瑚の乱れる呼吸がリアルで、見ているのが本当に辛かった。
母と離れ、男としての新しい人生を歩んでいた安吾だからこそ、「人生を変えようではなく、新しい人生を生きてみようよ」という言葉が出たのかなと思った。強く生きていると思っていた安吾にも大きな悩みがあって、それを誰にも伝えることが出来なかったというのは相当苦しかったと思う。安吾の思いを想像した時に感情がドッと溢れてきて涙か止まらなかった。

貴瑚がベランダで「バカだなぁ、なんで死んじゃったんだよ。私を助けてくれてありがとう。私を愛してくれてありがとう。」と亡き安吾に語りかける姿が儚くて、辛かった。自分の声を聴いてくれた安吾の声を聴いてあげることが出来なかったのは相当苦しかったと思う。それでも次は私が誰かの声を聴いてあげるんだという強い信念を抱き、安吾が自分にしてくれたことと同じことを少年にしてあげるというその考え方を見習わないといけないと感じた。

52ヘルツのクジラたち。世界で1番孤独なクジラ。でも家族や友人でなくとも、その声はどこかの誰かにきっと届く。この映画を見た人全員が前向きな気持ちになり、命の大切さを痛感すると思う。
キャスティング、演技、ストーリー。どれをとっても非の打ち所がないほどの最高傑作だった。沢山の人に見てもらいたいけど、感情が大きく揺れるので軽い気持ちで見に行くことはオススメしない。
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