こいし

52ヘルツのクジラたちのこいしのネタバレレビュー・内容・結末

52ヘルツのクジラたち(2024年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

絶望も希望も描かれた、素晴らしい映画だった。

時間の制約上仕方ないものの、展開の早さは多少気になった。
父の介護をしている間は母との関係が改善していたこと、琴美の父の人間性、村中との関係、結末といった、原作で物語の深みを増させていた部分が映画では端折られており、原作未読の方が観ると、要素ぶち込み感が否めないのでは?と感じた。

でも、それをもってしてもとてもいい映画‼︎

真飛聖さんと宮沢氷魚さんの、弁明の余地もないほどクズな中にも、一欠片の人間臭さを感じさせる人物描写が見事だった。
その後も彼らの人間性は変わらないんだろうな…と思わされるのもリアル。

余貴美子さん演じるアンさんのお母さんが、
いかに子供を大切に思っているかが分かるだけに、切なかった。
最後の会話は、確かにアンさんを傷つけたかもしれないけれど、今まで一切知らされていなかったのに完璧な対応をせよというのが無理な話で。
アンさんが自殺を決意したのはアウティングによるものであって、決してお母さんの言葉ではないと思う、きっと。
それでも、一生後悔は残るだろうし、空港でキナコから聞いたアンさんの東京での様子を誇らしくも思うのだろうと思うと、胸が苦しくなった。

そして、何よりも杉咲花さんと志尊淳さんの素晴らしさ。
観ていて、本当にしんどかった。
52ヘルツの鯨について教えてくれた本人が、誰よりも声を上げられなかったというのが切ない。
そして、自分は聴いてもらったのに、相手の声を聴くことができなかった後悔を抱えながら、それでも生きていかなきゃいけないのも苦しい。

終盤、テラスでキナコとアンさんが並んでいるシーン。
キナコの言葉に対してアンさんが何も返さないのが、亡くなるってそういうことだよな、と思わされた。
姿を思い浮かべたり、こう返してくれるんじゃないかと想像したりはできるけれど、実際に言葉が返ってくることはもうない。


それでも、アンさん、キナコ、愛、へと確かな希望は繋がっていて。
村中や美晴、町の住人など、52ヘルツまでは届かなくとも、理解しようと動いてくれる人は存在するんだな、と救われる物語だった。

以上、長ったらしい熱語りになってしまいましたが、総じてめちゃめちゃ良かったです。
こいし

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