まぬままおま

静かに燃えてのまぬままおまのレビュー・感想・評価

静かに燃えて(2022年製作の映画)
4.2
小林豊規監督作品。

本作は、犬童一心監督の盟友である小林監督の長編デビュー作であり、急逝したため遺作でもある。しかも還暦を超えてのデビュー作。人生の厚みを感じる。

そして本当に素晴らしい。物語も演出も撮影も美術も衣装も何もかも。

同居することになった容子と由佳里の物語と引っ越してきた兄妹の物語と催眠術セミナーの出来事がどのように関係しているのか、全く分からないまま進んでいくのだが、終盤、鮮やかに繋がっていく。トリックは単純だけど、語りが巧みだから本当に驚いた。

撮影も素晴らしい。撮るべきものをちゃんと撮っている。変なカメラワークだったり、無駄な余韻に全く頼っていない。正統で厳格なショット、その連鎖。このように映画は撮らなければいけないと思い知らされる。

美術も衣装も素晴らしい。こんなにも美術や衣装が物語に豊かさを与えるのかと感慨深くなった。二人の住居に飾られる絵画は、それ自体で美しいし、何より容子が由佳里にどのように眼差しを向けているのかがよく分かる。そしてその飾られる壁は、パンフレットを読んで新たに造作されたものであると知り、驚いた。
衣装も何回衣装替えするんだと驚きつつ、キャストの魅力や人物の背景に彩りを与えている。それは多分にフェティッシュを感じるが、いいんです…あの部屋着とか。

アヴァンタイトルが挿入される前に物語の前提を十全に語ったり、買い物に行く短いシーンもスーパーでロケをしたり、本当に芸が細かい。眼鏡をくいっとあげる仕草や咳で会話を中断させるとか、何とも古くさい演出ではあるが、それも味があるし素晴らしい。

セクシュアリティの傾向を催眠術セミナーを導入するように心理的幻覚とさせる危うさはあるが、それもトリックの時代性と語り直しによって乗り越えられていると思うし、全く文句なし。

再観賞すればよかったし、小林監督の次作がないのが悔やまれる。

追記
併映されていた『山小屋生活』も素晴らしい。
小林監督が14歳の時につくられた作品だが、天才。カットは的確だし、ギミックも面白い。5分短編はこのようにつくるべきだと14歳の小林監督に教えられた。