三隅炎雄

ブラック博士とハイド氏の三隅炎雄のネタバレレビュー・内容・結末

ブラック博士とハイド氏(1976年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

70年代ブラックスプロイテーションのひとつ。無料クリニックを開く篤志家のアフリカ系医師プライド氏は、肝臓病のために開発した血清を自身に射ったことで、白い肌の凶悪な怪人ハイド氏に変身してしまう。クリニックでの女性ヌードなどいかにも安手な作りだが、低予算のその貧しい画面が、娼婦やポン引きたちの生態描写では、メジャー映画にはないザラついた魅力を放って映画の興味を引っ張る。
 スティーヴンソンのありきたりな翻案に見える映画が輝き出すのは、主人公が生い立ちを語る場面からだ。高級娼館で下働きをしながら彼を育て、ついに酒に溺れて死んでしまった母親ーー医師の篤志活動と肝臓病の血清開発への執念はその過去に由来する。が同時に、白い肌の怪人ハイド氏が襲いそして殺すのは娼婦とポン引きばかりで、過去を巡って正反対の方向へ引き裂かれた彼の精神を物語って痛ましい。
 また主人公が血清に副作用があると知りながら、自分に好意を寄せてくれている娼婦に実験台になるよう促す場面では、主人公の精神的分裂とは別の社会的な病、医師と患者、富む者と富まざる者、男と女、それらの間に横たわる溝、社会における権力関係が残酷に描かれている。
 ファンキーな音楽に乗った激しいアクションののち、道化にも見える白い顔のハイド氏は悲鳴を上げながら、古の猿人キングコングをなぞるようにしてサイモン・ロディアのワッツ・タワーに登り、銃殺される。彼の遺体=地に落ちたプライドに走りよって泣いてくれるのは、彼が母を重ねて面倒を見ていたのであろう娼婦ではなく、同僚のエリート女医だけだ。ここでもまた映画は埋めがたい大きな裂け目を描く。映画は最後まで決して甘くならない。チャチな作りでもしっかりした思想の背骨を持つ、これは個性ある映画だ。
三隅炎雄

三隅炎雄