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コンクリート・ユートピアのプライのレビュー・感想・評価

コンクリート・ユートピア(2021年製作の映画)
4.6
大災害に見舞われて壊滅的となった韓国・ソウルにて奇跡的に崩落しなかったアパートの生存者たちが1つの組織となってサバイバルするスリラー・ドラマ。

命の危機に追い込まれて芽が出る人間の醜悪…ではなく本能が様々なケースでポコポコ浮き彫りになる。『パラサイト 半地下の家族』的な階級社会の対立から生まれくる暴力。『ミスト』のように、ここぞとばかりに神の意思を信仰する人間の意思。『福田村事件』同様、1人の意思が皆に伝播する同調圧力の怖さ。群集心理や生存本能を風刺した名作たちを集約し、それらを続きが気になるストーリーに仕立て上げ、韓国映画らしく少々のブラック・コメディを加えた傑作エンタメ。名作たち同様、極限状態の人間は良心を捨て切ることを選んでしまうが、それでも良心を持ち続けようと思わせる。

惜しい点としてはコメディの挿入。決して面白くないわけではないが、オスカーに韓国代表として出品して世界に送り出すならば、抜いた方がウケが良かったかも。世界的にウケた『パラサイト 半地下の家族』は、まだ生計を立てて明日も生きれる状態であるからコメディが馴染むけど、本作は明日をも知れぬ命ゆえに馴染みづらい。韓国映画の鑑賞経験がない方ほど「えっ?なんでギャグかましたの?」と疑問が沸いて、映画の世界から引き剥がされると思う。なので、世界ウケを目指すならコメディを外した方が良かったかもと勝手に考えた。その場合、韓国内でウケるかは分からないけど。

アパート住民の代表役を務めたイ・ビョンホンによる演技の振り幅が素晴らしい。初見時、完全にスターのオーラを雲散霧消して冴えない男を演じ切っており、そこから狂気に転じていくグラデーションが見事。冴えない男からアパート1の権力者へと移り変わり、極限状態で権勢を持ってしまった人間を体現していた。

夫婦役を演じたパク・ソジュンとパク・ボヨンが対比として素晴らしい。良心を捨て、妻を守ろうとする家長精神の夫。良心を捨てず、皆で生き残りを目指す妻。極限状態に陥った人間の行動パターンを対比的に体現していた。また、良心を捨てた夫は生きるために具体的な行動を起こすのに対し、良心を保った妻は皆で生きるために具体的な行動を起こしてないというバランスがリアリティ高くてニクい。キム・ソニョンが演じた婦人会長も口だけ動かして他人を動かすという組織に居たら嫌な奴の典型例を体現していた。


⭐評価
脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐
演出・映像   :⭐⭐⭐⭐⭐
登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐
設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐
星の総数    :計18個
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