ボブおじさん

セイント・オブ・セカンドチャンス ベック家の流儀のボブおじさんのレビュー・感想・評価

3.8
この映画は野球に情熱を捧げたある家族(父と息子そして父と娘)の物語である。

同時にこの映画の語り手であり、タイトルでもある「セカンドチャンスの聖人」球団の2代目オーナー、マイク・ベックの人生における2度目のチャンスを描いたドキュメンタリーである。

野球の世界を舞台としているが、野球に対する知識がなくても楽しめる。描かれているのは、野球ではなく人生だ。

後にアメリカ野球殿堂入りを果たす偉大な父の影に怯えながら、もがき続けるマイクは、ある日その父の功績をも台無しにするような〝野球界の黒歴史〟となる大惨事を引き起こす。

大好きだった野球から追放された若き日のマイクは、その後数十年をかけて汚名返上を決意する。そしてそれは、大切な家族と真正面から向き合う旅の始まりとなった。

人生は、野球に似ている、チャンスの後にピンチがくる。点を取ったり取られたり。野球は9回に決着がつく。勝つ時もあれば、負ける時もある。だが、大事なのは勝ち負けじゃない。参加することだ。

そして……
翌日には、もう1度やり直すことができる。

2度目のチャンスを与えてもらった彼は、2度目のチャンスを与えることに臨む。

盲目の解説者、初の女性選手、両足のない打者、そして追放された元スーパースター。

たとえ今は上手くいかなくても、明日にはまた別のゲームが始まる。みんなが堅苦しく考えなければ、世の中は、もっと生きやすくなる。



〈余談ですが〉
2023年8月ニューヨーク・メッツは、強打の外野手として活躍したダリル・ストロベリーの背番号18と、1985年に史上最年少の20歳でサイ・ヤング賞(最優秀投手賞)を獲得したドワイト・グッデンの背番号16を永久欠番にすると発表した。

ともに1980年代のメッツを象徴する選手であり、1986年、現時点では球団史上最後の世界一を果たしたチームの中心選手であり、掛け値なしのスーパースターであった。だが、2人とも薬物の使用で出場停止の経歴がある。

ストロベリーは1980年ドラフト全体1位指名でメッツに入団。デビューした1983年に26本塁打を放って新人王を受賞すると、メッツに在籍した8年間は毎年26本塁打以上を放ち、1988年には自己最多タイの39本塁打を放って本塁打王のタイトルも獲得した。メッツ時代に放った252本塁打は現在も球団記録として残っている。

映画の中にもある様に、彼は素晴らしい選手であると同時に、多大なトラブルメーカーでもあった。

愛人との間に子供をつくり、妻を拳銃で脅し逮捕、妊娠させた別のガールフレンドに暴行し逮捕、試合を勝手に欠場し行方不明になり解雇、納税漏れで起訴され追徴課税と自宅拘禁を宣告、コカインの使用で75日の出場停止でそのまま解雇。

映画に登場するのは、この後のことである。これだけの問題を起こし、当然ながらMLB(メジャーリーグ)から見捨てられたストロベリーに対してマイク・ベックはセカンドチャンスを与えたのである。

ちなみにストロベリーが独立リーグのセントポール・セインツに所属していたのは僅か2ヶ月。その後、MLBに復帰したストロベリーは、ニューヨーク・ヤンキースのワールドシリーズ制覇に貢献。映画は、その時のことを描いている。

日本にも不祥事を起こして球団、球界を追われる選手は、時々いる。日本の球界は、野球ファンは、果たして彼らにセカンドチャンスを与えてきたのだろうか?



〈さらに余談ですが〉
マイク・ベックおよびMLBにセカンドチャンスを与えられたストロベリーの物語は、ここで終わらない😅

ヤンキースで世界一に輝いた後も、一定の成績を残す一方、おとり捜査による逮捕やコカイン使用での出場停止処分、同時にガンが発見されるなどトラブルは多発。

セカンドチャンスを与えてもらったにもかかわらず、この失態である😢

そのストロベリーが2023年に球団から永久欠番の栄誉をもらっているのだ。これは、セカンドチャンスどころではないだろう。法律や倫理観、コカインに対する認識・位置づけも違うので比較は難しいが、日本では考えられないことである。

〝セカンドチャンス〟の本当の意味について考えさせられる。