菩薩

アイアンクローの菩薩のレビュー・感想・評価

アイアンクロー(2023年製作の映画)
3.5
5年ほど前から人生のテーマを「男性性から降りる」に定め余生を送っている身としては正直なんの興味も持てない話だったがたぶん結構良い映画だった。改めてA24がここまで頑なに家族を呪いとして描き続けるのは何故だろうとそっちが気になったが、父の悲願に縛られ意思決定権そのものを剥奪された息子達は、男らしさの自縄自縛の中で滅んでいく。実質的長兄を除いて次々に死を迎えていく兄弟達であるが、その決定的な場面は見せて貰えず、あくまで結果としての死が突きつけられる。立て続けの死に際し同じ喪服を着用するのを拒む母を優しく慰めるのも息子ではなくその妻、男達は悲しみに暮れる猶予すら残されず1人が倒れればまた1人がその穴を埋める。もはや戦争に近いこの構図、最後の弾がつきかける前にようやくその手は真の敵の首元に伸びるが、最後の最後で戦い続ける宿命のリングから降りることが出来た彼は男らしさの呪縛から少しだけ解かれる。なんともアメリカンマチズモな話だと思ったし、リリー・ジェームズはつくづくアメリカンダイナーが似合う。存在を抹消された末っ子がいると知りなんじゃそりゃと思った。父と神、その庇護下で彷徨える息子たち、あなたはあなたの人生を生きなさい。
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