竜泉寺成田

レザボア・ドッグス デジタルリマスター版の竜泉寺成田のネタバレレビュー・内容・結末

4.7

このレビューはネタバレを含みます

タランティーノ作品は「ヘイトフル8」しか見たことないという変な遍歴のまま、リマスター版を劇場で鑑賞。正直、「ヘイトフル8」はハマっていなかった(ミステリとして紹介されていたので謎解きメインで見てしまったことが原因)ので、あまり期待していなかったのだが、流石にめちゃめちゃよかった。
会話はさることながら音楽の使い方も非常に緩急がしっかりしていて、ポップな軽快さとシビアな現実との交替が非常にスリリンで引き込まれる。冒頭のかっけえOPから、急転血まみれの逃亡が始まるという容赦のなさには、人生の無常を感じざるを得ない。
また、「体制と反体制」「組織と個人」「善(=他者のための行為)と悪(=自分のための行為)」といった対立軸が、個人の内部で入れ違っているという点も味わい深い。
ホワイトは反体制的な組織に身を置くが、組織のため、そして何より仲間のために動く善の行動原理を持った人間である。一方、オレンジは警察という極めて体制側の組織に身を置きながら、自らの功績を追い求めて行動する。
この映画の肝はなんといってもオレンジの回想シーンであるが、オレンジは社会平和を目指す体制側で働いているにも関わらず、最終的に逃走用の車を奪う場面で無関係の市民を撃ち殺してしまう(この時点で彼はもう善良な市民には戻れない)。一方、極めて個人的に生きることをポリシーとするピンクは、車を奪う際に多少荒々しい手段を使うも、運転手に危害は加えない。彼の目的は逃走したいというただそれだけであり、一貫している。
組織の理念と個人の行動原理の矛盾に苦しみ、破滅の道を辿ったホワイトとオレンジ。冒頭から一貫して個人のため合理的に動き続け、見事生き延びたピンク。しかし、彼らはみな彼らなりの「正しさ」を貫いたはずである。
何が正しく、何が間違っているのかーー倫理観という行動基準が、置かれた環境や立場においていとも簡単にその性質を変容させる、ひどく脆弱なものであるという点を浮き彫りにするのは、昨年公開された「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」に通じるところを感じた。
竜泉寺成田

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