ワンコ

わたしと、私と、ワタシと、のワンコのレビュー・感想・評価

4.0
【俯瞰して見る】

思いがけず面白かった。

ただ夏の日:
実は本の中で描かれるような、”ちょっと特殊な世界観”を映像化したような感じがする作品だ。伏線の回収を重視せず、最初の出会いの場面の唐突感や登場人物の少なさと、先の展開の読みづらさは、ちょっと村上春樹さんの短編小説のようなところもある。
そこからどのように物語が進むのか、短編ならではのスピード感があって飽きさせない作品になっている。

僕たちの世界は予想外のことで出来てるのではないのか。

春: 春に始まり、季節は廻り、春に終わる。祖父は抗いながらも衰え、アミも抗いながら成長する。商業主義の壁に突き当たりながらも、それを飲み込んで成長しようとするのだ。
「生きているか死んでいるか」なんてセリフもあったが、時とともに、良かれ悪しかれ人は変化するのだ。
生きているのだ。
古川琴音さんの良さが出ている作品だと思うが、祖父の排尿をあっけらかんと手伝う場面や、最後の「戦争」と明るく敬礼する場面は、彼女ならではの良さが特に出ていると思う。

冬子の夏: 「現実・実際・最後&未来」vs.「エモい」。
大けがをした後のリハビリで、昨夏、遠出をして五反田まで歩いたら、駅前のスペースにちょっとしたひまわり畑が登場していた。今年もあったのだろうか。
ひまわりは、太陽の方を向くので同じ方向に花がそろうのが”映える”のだと思うが、ある意味、同調的なもののメタファーとして使われたのかもしれない。
ただ、冬子が嫌う「現実・実際・最後&未来」と、ひとつだけ違う方向を向くひまわりに感じる「エモさ」も、時が経てばOne of themなんじゃないのか。枯れたひまわり畑を歩く冬子のエンディングの場面は、そんなことを感じさせる。
あと、冬子の友達がかわいい。
ワンコ

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