ワンコ

ピクニック at ハンギング・ロック 4Kレストア版のワンコのレビュー・感想・評価

5.0
【揺らぎ】

少女が大人になる瞬間の揺らぎを象徴的に表現した秀逸な作品だ。

オーストラリアでの公開は1975年だが、日本では約10年後の1986年に六本木にあったシネ・ヴィヴァンでの公開だった。
ミニシアターブームが到来した頃のことだ。

そして、原作小説が書かれたのが1967年であることはもう一つ重要な点だと思う。

昔、深夜の映画番組で探偵ナイトスクープの初代か2代目の秘書だった岡部まりさんがナビゲーターとして、少年が大人になる瞬間をテーマにした映画は多くあるように思うが、これほど少女の大人になる瞬間の揺らぎを象徴的に表現した作品は今までにはなかったと思うとおっしゃっていたのを思い出す。

「ミランダはボッティチェリの天使」

天使は本来自由な存在のはずだ。

(以下ネタバレ)

ハンギングロックで高いところを目指し帰って来なかったミランダとマリオン。

引き返すイーディス。

踏み出せなかったのか、理由は分からないが発見されるアーマ。

そして、導かれるようにスカートを脱ぎ捨ててハンギングロックを目指す教師マクロウ。

これらは恋愛や性に対する目覚めや行動を象徴的に表したものだと思うが、タイミングは人それぞれであることに加え、恋愛や性への興味は少女だけのものではないことも意味しているのだと思う。

アーマが外していたコルセットは女性を雁字搦めにしている偏見のメタファーだろう。

そして、もう一つの重要な要素。

女性に対する偏見から脱することが出来ない社会システムを1900年の全寮制の女子学校に置き換えて見せているのだが、作品が書かれた1960年代はアメリカを中心に女性解放運動が広がった時期でもある。

オーストラリアでもこのムーブメントが注目されていたに違いないのだ。

ただ、この作品の面白いのは、この全寮制の女子学校の崩壊を示唆し、凝り固まった女性への偏見も崩れ去ることを予感させるような展開にしていることだ。

この原作の小説は当時実際にあった事件をモチーフにしているというデマが広がっていた。現代のSNSのデマにも通じる。

だが、原作者のジョーン・リンジーは、自分の見た夢をベースに着想を得ていると言っていたらしい。

ただ、時代が時代だけに、僕はかなり用意周到に象徴的な表現を駆使して書かれた小説ではないかと思う。
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