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傷物語-こよみヴァンプ-の酢のレビュー・感想・評価

傷物語-こよみヴァンプ-(2024年製作の映画)
3.3
【前提】
・原作未読。
・3部作は公開当時に見た。内容は朧げにだけど覚えている。

【感想(簡潔)】
3部作より構成がシャープになっていて、「映画として」も「物語として」も意図が鮮明に打ち出されている。つまり、尾石達也のユニークな演出と、原作・西尾維新のあっと驚く物語構成が、同時に感じられる。初見なら絶対にこちらをおすすめする。

【感想(詳細)】
早速前言を翻すようでアレだけど、結局尾石達也の演出と西尾維新の原作が喧嘩してるのが全ての噛み合わなさの原因なんだと思う。総集編のはずなのに2時間越えっておかしいな〜と思っていたら、案の定尾石達也印のおセンス演出が全然残りまくりの編集方針。これは何を意味するかと言うと、アニメーションとしてor画として面白い演出が優先されて、キャラクターへの愛着が蓄積されていく描写とか会話が尽くカットされているということで。だから全編通じて薄らと「どうでもいい」。かと言ってつまらないわけでもない。おセンス演出は「その場では」面白い。でも映画への没入は妨げられてしまう。そして集中が完全に切れるギリギリのところを神前暁の音楽が補って、かろうじて登場人物の感情の流れに同調できるという仕組み。一方で脇道に逸れる掛け合いが削られたことで、原作が持つ物語構成の骨格の面白さはかえって明確になっている。いやー危ういバランスで成立している映画だマジで。

尾石達也は人間の感情の積み重ねに興味がない人なんだと思う。もしくは記号的に茶化すことでしか表現できない。その弱点を露呈しないためにも、やっぱりモノローグって大事な要素だったんだなあ、と。「血」「日章旗」「旧国立競技場」とメタファーの連鎖で射程の広い戦後日本論に昇華する試みも、意図はよくわかったけど、そこに至る人間描写の積み重ねがないと片手落ちだと思う。演出戦略の意識ばかりが高くて結局空回りしている。

【要望】
物語シリーズは結局青臭い若者の湿っぽいドラマ。尾石達也は観念的な題材を突き詰めたいなら別の土俵を選んでほしい。あともし可能なら、次回作はもっとスッカラカンで短い作品をやってくれ。照れ屋なら絶対そっちの方が向いてるから。
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