あくとる

アメリカン・フィクションのあくとるのレビュー・感想・評価

アメリカン・フィクション(2023年製作の映画)
4.5
世間は、高品質だが難しくて高いものより、中身が無くとも安くて手軽に楽しめるものを求めている、とはまさに真理。
黒人作家が出版社の白人たちが気に入るような"黒人らしい"作品を書いて納めるという皮肉な構図を問う。
黒人文化の現在の着地点において、極めて鋭い批評をブラックコメディに仕上げた。

いつもは黒人らしくない本を書いてるモンクが偽名でベタな黒人物語を書いたら、出版社が即食いついてきてトントン拍子で成功するという皮肉で笑える筋書きは、傑作ドラマ『アトランタ』を彷彿とさせる。
日本でも概ねそうだろが、やはりステレオタイプの黒人像=マッチョなラッパーなのはアメリカでも同じらしい。
黒人らしさとは何か?
マッチョで粗野でギャング。
そして最後にはストリートで撃たれて死ぬ。
実際にはナードでひょろひょろの人だっているのに、映画やドラマに出てくるのは決まってステレオタイプの黒人たちばかり。
それは"求められている"からだ。
大声で多様性を受け入れようと言いながら、型にはめることを楽しんでいる。
真の多様性とはどうやって実現できるのだろうか?
一線を超えてみせるラストが秀逸。

ジェフリー・ライトの"タフな男を演じている"という演技や、ふざけて書いた著書に対する複雑な表情が抜群に面白い。
一方で兄クリフのゲイを家族にも伝えられない、受け入れてもらえない辛さも胸を打つ。