MasaichiYaguchi

アメリカン・フィクションのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

アメリカン・フィクション(2023年製作の映画)
3.9
人気ドラマの脚本家として活躍してきたコード・ジェファーソンが、パーシバル・エベレットの小説を原作に初メガホンをとった監督デビュー作は、主人公の黒人の小説家セロニアス・モンク・エリソンが、半ばやけになって書いた冗談のようなステレオタイプな黒人小説がベストセラーとなり、思いがけないかたちで名声を得てしまう姿を通し、出版業界や黒人作家の作品の扱われ方を風刺的に描き出していく。
小説家にして英文学の教授ながら、著作に“黒人らしさ”が足りないと評され、本が売れ行きが芳しくないモンクは、認知症を発症した母の高額な介護費が必要となり、頭を抱える事態に陥る。
そんな折、ステレオタイプ的な“黒人の惨めな人生”を求める世間に迎合した小説が売れていることに気付いた彼は、むしゃくしゃしたまま思い付く限りの“黒人要素”を詰め込んだ実録風犯罪小説をペンネームで書き上げる。
ところが冗談で書いたこの著作は思わぬ人気を呼び、皮肉にもミリオンセラーとなり、ハリウッド映画化まで決まってしまう。
脚本と製作でもクレジットされたパーシバル・エベレットの原作は、小説家を主人公にしたメタフィクション形式の作品「Erasure」で、主人公の名を全米図書賞を受賞したラルフ・エリソンから採っていたり、1990年代の米出版界をモデルにするなど、刺激的な仕掛けに満ちた内容になっている。
主人公のモンクは、父や兄弟はみんな医者という家系に生まれるも、自分だけは好きな道に進み、実家は妹に任せ放しにしている。
更に彼は職場では問題児扱いされ、作家としても微妙だが、誰に対しても上から目線の皮肉屋というインテリのクズで、人種を問わず直面する問題も抱えており、ドラッグや暴力とも縁遠い、世間が思う黒人像からは程遠いキャラクターになっている。
そんな彼が“バズった”先には、どのような結末が待ち受けているのか?