原作と大林版は未見だが、そもそも昭和の日本から現在のロンドンへと移った舞台設定をみても分かる通り、割と大規模な改変が行われているようだ。
すでにこの世にはいないもの=異人の存在を薄ら感じさせる様な幽玄な映像表現と、やはりここでも佇まいで魅せるポール・メスカルによる好演も相まって、昨年の傑作「Aftersun」と絡めて語ることが出来そう。クィア的な仄めかしは「Aftersun」でも散見されていたが、今作では自身が性的マイノリティでもあるアンドリュー・ヘイが現代のゲイ達の姿を一段踏み込んだかたちで描いている。
ただ、アンドリュー・スコット演じる主人公アダムの孤独は現代に生きる全ての都市生活者に適応できるものであり、死んだ親との邂逅というテーマもあって誰が観ても納得できる普遍性も兼ね備えた作品と言えるだろう。
ラストシーンは劇中印象的に使われているFGTHの「The Power of Love」のMVからインスパイアされたものだと監督自身も公言しているが、この幽玄な作風に更なる深みを持たせる素晴らしい改変と言えるだろう。全体を通して傑作！
