異人たちのSのネタバレレビュー・内容・結末

観ている間、観終わった後、これ以上なく人の温もりを強く欲してしまった。人の温もりの持つ力を静かに、鮮烈に、ミステリアスでロマンティックに、それでいてリアルに描き出すアンドリューヘイ監督の虜になってしまった。
自分が主人公同様クィアなのが大きく共感できた一因だと思うけど、今までにないほど生々しく愛を感じて衝撃を受けた。今まで全く気にせずに男女の恋愛映画を楽しんできたけれど、クィア当事者としてクィア映画は真に共感できる嬉しい映画なのかもしれない。発見と新しい体験を与えてくれた本作は自分にとって大きな存在になった。ありがたい。
そして親子が失われた時間を取り戻そうと対話する時間もまた、全くそんな当事者性はない自分にも訴えてくるものがあった。或いは自分が見ないふりをしているだけで、両親との対話が足りていないかも、とか考えさせられた。
静かな映画ではやはり台詞回しや細かい描写が重要になってくる。本作では彼らがアダムにかける言葉や間、触れる手、見つめる瞳などに優しさが溢れていた。彼らは生きてはいないのにあの瞬間アダムの前で誰よりも生きていて、彼を大きく支えて変えた存在の大きさを感じた。
失ったものをいくら取り戻そうともがいてもきっと足りないから、今目の前の大切なものを抱きしめたい。