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異人たちのGOLDのレビュー・感想・評価

異人たち(2023年製作の映画)
3.9
「異人たちとの夏」の好きなところは、最後にはルールに則っているところ。「異人たち」は、そうでなくてもいい、というところに救いを求めていたように思える。
その願いを、俺は無責任な逃避と断じてしまう。
我々が生きるこの世、社会には曲げられないルールがある。一度逸してしまったものは、もう二度と戻ってこないというルール。二度と戻らないから、ただ家に迎え入れてくれるだけでたまらなく嬉しい。自分を求めてくれるのが嬉しい。しかし嬉しいのは、"二度と"戻らないからである。アダムはそれをわかっていないように思える。
結局両親もハリーも戻ってきてはいないと俺は思う。戻ってきてないけど、目の前にいる。だからたまらなく嬉しいし、涙が出てくる。ただ単に嬉しがってはいけない。そこには必ず後悔が滲んでいるべきだ。何故なら目の前の彼らは君が作ったものだから。すでに"逸してしまった"あなた自身が作ったものに、無条件に救いを求めていいはずがない。あなたは、次に逸しないための努力をすべきだからだ。

クィア要素について、この視点で語ったことで、明らかに原作とは違う作品になったと思う。筋書きではなく、魂から違うものである。
タイトルが「異人たちとの夏」ではなく「異人たち」である時点でもちろん自覚的だとは思うが、主人公が魂を置く場所が違う。「異人たち」では、アダムは異人であるという自認(適切な言葉ではないと思うけど)で動いている。それによって、異人を救うことが、自らを救う事と同義になっているように思える。俺からすれば(マジョリティである俺からすれば)、アダムはまったく異人ではない。何故なら生きているから。この作品における異なる部分とは、生きているか死んでいるかだけであってほしかった。性的自認は、生死に比べたら大した違いではない。
ハリーは死んでいるから異人なのであり、殺したのはアダムである。性嗜好が同じだとか愛し合っているからとかそんなことは、死の前には泡沫にすぎない。アダムはハリーを救うことなど絶対にできない(両親も然り)。
言いたいのは、アダムは死ぬべきではなかったということ。自分が異人であると思い、排除されていこうとする姿勢が本当に気に食わない。生きている人間は最後まで生き抜くべきだ。それこそ飲酒運転にはねられるまで。受け入れるとか受け入れられるとかそういう話ではない。生きるか死ぬかをアダムは選ぶべきだった。
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