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異人たちのtakaeのレビュー・感想・評価

異人たち(2023年製作の映画)
4.2
孤独と痛みで繋がり、寄り添う魂。
夢のように美しく、だけど永遠には続かない刹那的な時間。

ロンドンのタワーマンションに暮らす40代の脚本家アダム。
窓から見える街の明かりや夕暮れ。ソファーで眠ってしまい、目を覚ますともう夜が来ていて感じる取り残されたような気分。誰とも言葉を交わすことなく終わってゆく一日。

オープニングで映し出されるアダムの生活を見ているだけで、痛いくらいの孤独を感じて息が詰まり胸が苦しくなる。

そんなアダムが同じマンションに住む謎めいた青年ハリーと出会い、時を同じくして遠い記憶を辿り懐かしい故郷の家を訪ねると、まるでタイムスリップしたかのように12歳で死別した両親と再会するー

観ている間中ずっと、夢を見ているような感覚でした。夢と現実の狭間、美しく甘美で、切なさと物悲しさが漂う不思議な空間。

アダムが故郷の家を訪ね、そこで死別した両親と出会うところからもう涙が溢れて止まらなかった。
12歳で突然両親との別れを経験し、そこからアダムの中で止まっていた時間が動き出す。一緒に過ごせなかった時間を目の前に現れた両親と共にやり直す。

何だろう、私はアダムとアダムの両親、両方の視点で両方に共感しながら観ていたような気がします。

2歳で父を亡くした自分はアダムに、そして12歳の息子を持つ自分はアダムの両親に。

大人になった私を見て、父はどんなことを思うだろう。立派になったと、頑張っていると褒めてくれるだろうか。失望したりしないだろうか。

そして、息子がもっと幼い頃、大変さを楽しむ余裕がなかった自分。反抗期の彼を鬱陶しいと感じてしまう自分。

だけど、今という時間は一瞬で過ぎ去り、人生はあまりにも短い。
あの頃に戻ってやり直すことは決してできないんだと、アダムが両親と過ごす時間を見ながらそんなことを思い、今目の前にあるものや時間の大切さを改めて強く感じたりもしました。

そして、アダムとハリーの関係。
互いにゲイであり、LGBTQ+に対するその捉え方や価値観は違えど、孤独を抱えて生きているのは同じ。
孤独に共鳴して惹かれ合うってすごくよくわかるような気がします。

互いに孤独との付き合い方は全く異なる。
アダムは人と距離を置き、ハリーは酒やドラッグ、人との関わりに溺れる。

孤独は誰かと一緒にいる時の方がその輪郭がくっきりするものだから、もしかしたらハリーの感じる孤独の方が深く強かったのかもしれない。

孤独や寂しさについて言うと、もうひとつ印象的だったのが、アダムが母親にゲイだとカミングアウトした時の母親の反応に対してアダムの言った「寂しさとゲイであることは違う」という言葉。
そう、きっとそうなんだろう。だけど、そう言っているアダムが自分の言葉に一番違和感を覚えていたような気がするのはなぜだろう。

失われた時間を両親とやり直すことは美しく楽しいことばかりではなく、自分のアイデンティティを理解されないもどかしさや苦しさも付きまとう。
だけど、そういうことも全部ひっくるめてアダムにとっては必要な時間だったんだろうと思います。

内容は違えど、どことなく「パストライブス」と似たものを感じたのは “子どもの頃に戻ってあの頃をやり直す” というところなのかな?

こういうどこか観念的な内容の作品は感じたことを言語化するのが本当に難しい。
またもやとりとめのない内容になってしまったけれど、孤独との向き合い方、短すぎる人生で大切にしなければならないこと、生と死、喪失と再生、そして人を愛するということ。
それらを自分の人生と重ね合わせ、様々な想いを巡らせながら観ずにはいられない、そんな作品でした。

繊細なお芝居と表現力のアンスコさん、甘さと痛みをまとうポール・メスカル、共に本当に素晴らしかった!

彷徨う孤独な魂に寄り添い、彼らを偲ぶようなラストの余韻が今もまだ続いています。
観に行けて良かった。もう上映が終わってしまっているかもしれないけれど、まだ上映しているならぜひ劇場で観て欲しい作品です。
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