オロゴン

異人たちのオロゴンのレビュー・感想・評価

異人たち(2023年製作の映画)
4.0
主人公がゲイであることを母に話す場面の演出が印象に残ります。

テーブルまたいで向かい合う母と息子。息子が母に打ち明けた後、母が自分で淹れた紅茶を台所に捨てに行きます。それに合わせてカメラが横移動。ここでカメラが切り替えしのラインを越えますが、それによって以降カメラの向きが室内側→窓側から室内側←に窓側反転します。
暗いところ(室内側)から明るいところ(窓側)を撮ると絵画や舞台のように画面は美しく安定しますが、反転すると急に不安定で気味の悪い画面になるなと思うのですが、案の定、息子の告白に母は抑圧的な態度を取って二人の間に緊張が走ります。

一方で息子から父への告白の後、母と同じように席を立ち上がるアクションを反復し、レコードを止めるのですがそこでカットを割ってカメラはポンっと室内側に大きく引く。暗→明の美的に安定する絵画のような画面です。するとやはり、親子は和解します。

思い返せば、窓と光の関係性が何度も反転していく映画であり、ファーストショットの大変凝った窓越しに夜明けを見る人に始まり、後に恋人となる男との見る/見られる関係、父との店での邂逅、実家の窓に映る人影
という映画です。

ところで『荒野にて』を事前に見ていたこともあって距離の取り方がまるで違うことに驚きました。今作は空間処理を大胆に捨てて極端に心理劇に振っていますが、それが空間からの制約によるものなのか題材からの戦略性なのかは分かりません。

しかし、映画の中に決定的かつ単純にすごい1ショット(今作で言えば川の字に寝るところからの人物の入れ替わりと消失の長回し)がやはり存在するということに、演出家への信頼を持たざるを得ません。
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