ワンコ

眠りの地のワンコのレビュー・感想・評価

眠りの地(2023年製作の映画)
4.5
【痛快】

※Amazon Prime作品。

この映画「眠りの地」の影の立役者はハルじゃないかと思う。

現代アメリカの病んだ部分という側面はあるものの、実は、この作品は、日本で、最近クローズアップされたとある事件や、少子化によるお寺の経営悪化によるあれやこれやを考えるところにも通じるものがあるように思える。

例えば、日本では、中古車販売・自動車整備大手”BM”社の損害保険会社との癒着と思われる関係が世間を賑わして問題になっているけれども、僕たちも自動車ディーラーが自動車保険を販売するのはごく当たり前のことだと思っていて、そこに保険会社間の陣地取りがあって、大小のインチキがあるなんて微塵も考えていなかった。
当然の如く、BM社に支払われていた保険販売収入は保険契約者が支払ったものの一部から支払われていて、これは最近の自動車保険料の値上げになっていたんじゃないかなんて思う。
どう思いますか?

アメリカは、日本以上に保険大国で、葬儀会社が”埋葬保険”という人が亡くなった時に葬儀費用を賄う保険を販売しているのだが、もっというと、引き受ける保険会社はこれをかき集めポートフォリオのパッケージにして投資商品として投資家に販売していて、つまり、保険会社は中抜きして、リスクは投資家に転嫁して儲けているのだ。
アメリカの循環型金融システムだ。

だから、このシステムのどこかに入り込めば、保険会社じゃなくても安定的に且つ儲かる可能性があると考える奴(大手の葬儀会社のような保険販売会社)がいてもおかしくない。

葬儀会社が肥大化して、シェアを拡大、取り扱い保険契約の数が膨大になれば、保険会社との交渉力は増し、有利な契約を保険会社から得ることも出来るかもしれない。
日本のBM社とやっぱり似ている。

それにアメリカだったら、多少マージンが減っても、どうせ、投資家に売っちゃえばリスクは転嫁できるし良いや……ってのが保険会社のマインドセットかもしれないしね。

日本では、最近、千葉で、墓地を巡るトラブルから、お寺の住職が殺害されたとして、男女の容疑者が逮捕された。

これは極端な例だが、少子化で檀家も減少、お墓の移転に高額な料金を請求されたとしてお寺への不信感が増したり、トラブルになるケースも増加している。

人生の終い方は難しいものだ。

僕の祖母の実家はお寺だけれども、高度経済成長の時代に、これからの時代に合わなくなるとして、檀家制度を早々に廃止した。
当時は、批判に次ぐ批判だったそうだ。しかし、地元の特権意識のある人たちとの関係は薄くなったものの、逆に地域社会全体との絆は深まり、週末はお寺の住居スペースは雀荘のように解放されたりして、うちのお寺は人の集まる場所になっていった。

(以下ネタバレ)

この作品で描かれる人種間の戦いは、ある意味、フレーバーに過ぎない。

デカい企業が規模にモノをいわせて、善良な零細企業に圧力をかけて、市場を独占しようとする。

白人オキーフと訴訟チームの黒人弁護士ゲイリーとのタッグ。
相対するのはリッチな法律家チーム。

一見、負け戦のような構図だ。

しかし、黒人だらけの陪審員の裁判所での訴訟は、最終的に痛快な判決をもたらす。

白人優位な社会の中の、陪審員に白人が多い裁判所での白人警官の黒人殺害の裁判。白人警官に有利な判決。

逆だ。

KKKの活動を市長として妨げた経験のあるオキーフ。
おかしげなことはおかしげなのだ。

ハルはこの訴訟の勝利のフレームワークを考えただけじゃなく、草の根のような調査も怠らなかった。

まあ、未経験が故のゲイリーのヘマもあるし、法廷では、アメリカ南部の歴史を象徴するような事実も飛び出す。
様々な葛藤も見ものだ。

更に、些細な人種への偏見を持ちながらも、巨悪へ立ち向かう白人女性が登場し、マイノリティのコミュニティでビジネスを独占して法外な価格で商品を売る悪辣な手法を暴こうとするシーンを見ると、今、世界で懸念されているプラットフォーマーによる市場の独占を思い返したりした。

アメリカの分断は、人種だけじゃないし、収入の格差や、大企業vs.零細企業なんかの間でも深まっているのだ。

だが、おかしげなことをおかしげだと言う、ちょっとした正義が重要なのだ。

だから、余計にこの作品は痛快なのだ。
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