べし酒

恐解釈 花咲か爺さんのべし酒のレビュー・感想・評価

恐解釈 花咲か爺さん(2023年製作の映画)
3.0
昔話の「花咲か爺さん」でいう所の隣の性悪爺いを、今作では森羅万象さんが自己中心的で古臭い価値観の持ち主で倫理観に欠けたどうしようもない男として本当に憎たらしく演じていて、正直爺さんの復讐譚としてコレは上がるなぁと思っていたが…

犬のハルが殺されて奥さんが悲嘆から自死していよいよ正直爺さんが覚醒して来るぞーと思った所からの悪爺いの長女に対する行動には作り事とはいえメチャクチャ胸糞が悪くなっていたから、早よやったれーと思っていたが、その復讐とはなんと灰をかけるだけ。一応、焼けたて故か犬の呪い故かメチャクチャ熱い灰で火傷は追うんだけどね…。

そして以降の展開からは完全に否定。その灰を長女から生まれたばかりの赤ちゃんにかけてしまうという描写には、せっかく悪虐非道の悪爺いへの復讐譚で盛り上がった気持ちに完全に冷や水をかけられてしまった。まだ何の罪も背負っていない産まれたての赤ちゃんですよ。
まあ百歩譲って監督は復讐者には何の正義もないということを描きたかったとしても、その後に次女と甥っ子のソウタは見逃しているし、何より赤ん坊の死体を映像的にしっかり見せる必要は何処にもないかと。

ココまで、血潮が顔に飛び散ったりパーツとしての死体は映されても直接的な損壊やグロ描写はほぼ無かったのに、明らかに人形然としていたとしても正直爺さんの狂気の所業として強調したかったとしても完全にOUT描写。こればかりは流石に「作り手の神経疑う」という言葉を使いたくなる。

最終盤の一個前での甥っ子に対する次女の葛藤といった部分も唐突。父親以上に甥っ子が次女に狂気を覗かせた瞬間など何処にもないのに。まあここは葛藤ではなく観客に対するミスリード描写とも読めなくはないけど、意図はハッキリは掴めず。

でラストシークエンス。「花咲か爺さん」にかこつけた「人肉花を咲かせましょう」の実に強引なことよ。一番溜飲を下げる筈の悪爺いへ直接的な復讐行為が一切描かれずにそんなモノ見せられてもなんの面白さも湧かないですわ。

その人肉花のチープなビジュアルや黒焦げの赤ん坊の死体といった造形が監督の中での美として見せたかったたことなのかなと思うとちょっと受け入れられないですわ。

補足的追記
物語の中でも赤ん坊を殺すという要素を入れるのが駄目という訳ではないし、その様をビジュアルで描くこと自体が駄目とも思わない。
ただ今作の場合それにれよって物語の大きな転となるわけではないし、その残虐性を描く為にビジュアルが絶対的に必要でもない。
最終シークエンスの奇天烈な人肉花を見るにいたり、この監督はただビジュアル上のインパクトとして黒焦げの赤ん坊を描きたかったんだろうなと感じてしまったわけです。
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