くりふ

サイラー ナラシムハー・レッディ 偉大なる反逆者のくりふのレビュー・感想・評価

4.0
【ジャーンシーの女王のホラ話】

「熱風!! 南インド映画の世界」上映にて。

よく参考にするサイトで“大味”とあり、トレーラー見て自分もそう予想したが、タマンナー、ナヤンターラ、アヌシュカー・シェッティーと三大?インド美女が添え物でも出演して、あのデーヴァセーナが今度はマニカルニカ役というなら、大画面で見ておこうかと。

ハードル下げて臨んだせいなのか…なんだ、オモロイやん!…で、後から調べたらイロイロ、興味ぶかくなってきました。

本作の前年『アラヴィンダとヴィーラ』でも描かれた、地方特有のファクショニストによる抗争映画、その19世紀版。そこに国威宣揚スパイスをこってり、ぶっかけてあるんですね。

インド大反乱前の1846年、独立を掲げ英国に反撃したナラシムハーの物語だが、実際は、当時はナショナリズムがまだ育っておらず、ナラシムハーはファクショニストとして、自分の権益を守るために東インド会社と闘ったらしい。インド独立まで考えていたかどうか?

年金に関して英国当局に質問しただけ、との説wもあるそうだが、さすがに闘争はあったでしょう。当時、地域的な反乱は沢山あったが、ナラシムハーの闘いには階級を超えたメンバーが集ったことが特色だったそうで、そこは映画にしっかり、活かされています。

大枠は、『マニカルニカ』ではカンガナ・ラナウトが演じたラクシュミー・バーイーが、落城寸前で怯む兵を鼓舞するため、10年前こんなスゲエ男がいたぞ!とナラシムハーの物語を語ってゆく構成。…つまり男共を奮い立たせるため、ホラ話ぶっこいたのですね。

そう考えるとこの、妙に死なない主人公の、荒唐無稽な物語も妙に、納得…。www

テルグの“メガスター”チランジーヴィ主演作は初めて。メタボヒゲオヤジがヒーローって、南インドの謎だが、ナラシムハーの凸キャラはホラ話に見事ハマり、慣れてくる。ヒロインとの年齢差を埋めるためかこのオヤジ、後でCG化粧もしてね?…やだ、効いてる。w

『バーフバリ』のヒットで当時、バーフ超え映画制作がテルグ語映画の課題となったらしいが、“メガスター”投入の大作で挑んだのがコレ、だそうで。実際、映像に迷いがなく、堂々と撮った風格があります。飽きる画面が殆ど…妙なゲーム風画面以外…ありません。

『バーフバリ』よりCG依存度は低く、合戦シーンなど物量でリアルに攻め、迫力が違う。

一方、語りはラージャマウリ監督の方が巧いですが、こちらはテンポよいカット割りで、長丁場をサクサクと進んでくれる。手抜きにも思える、モンタージュに依る省略も、私は気になりませんでした。大味というよりフラット。しかし本作には合っていたのではと。

史実から鎮圧される負け戦とわかっていても絶望感はなく、いつ終わるかわからない感覚に、不思議とノセられてしまう。やっぱりよくできたインドの娯楽映画ってナニか、気持ち良くなる成分を分泌してるんじゃないだろうか。

『バーフバリ』に、明らかに依存している部分はありますね。幾つか、まるで同じ表現をパクってるし。が、仕上がりはバーフ超えというより、よき別物になっていると思います。

女優陣も期待しなかった分、驚きがありました。

アヌシュカーは美味しい役でしたが、デーヴァセーナの時よりふっくらお姫様顔に膨張しておられ、これから死闘に入る戦士の顔には、まるで見えないのが残念でした。説得力が…。

時代設定のせいか、他の女性たちは男に都合良い、損な役回り。耐える女。が、踊り子タマンナーはアイテムガールといっていい役だが、それを表現者へと昇華させたことは素晴らしい!流石のダンスシーン、二度ほどあります。で、そこにナヤンターラも…。

…しかしエンドロールまで来て“こういう時どんな顔すればいいかわからないの”に陥りました。そこまであからさまに、国威宣揚するのかと。娯楽映画でそこまでするインドって、そんなにテンパってるのか?と心配になってしまう。

ファクショニストだったナラシムハーを、インド独立のフリーダムファイターだったラクシュミー・バーイーの口を使ってそう仕立て、国威宣揚の偶像に祀り上げる。テルグ語圏だけでなく汎インド映画として、インド全国区に向けナゼ、そう示したかったのか?

ちょっとコワイ気もするんですが、インド映画あるある、で済ませればいいのかな?

実は、国会議員に返り咲きたいチランジーヴィおじさんの選挙活動だったりとか?www

…等々、他にも得たもの、色々ありますが、単純に見ただけでも楽しく、調べると味わい増し…な意外や、貴重な体験となったのでした。

<2023.11.1記>
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