染み入るようによかった。これもスタンダードサイズ16ミリでとても美しく瑞々しい撮影。序盤の暗闇と薄明のロングショットも印象的だった。
ほとんど空っぽの冷蔵庫から出てくる野菜も思いのほか生き生きしていて、その野菜で男性が作るスープも瑞々しさをそのまま煮込んだような、お裾分けされた誰もが喜ぶようなスープ。そんなシチュエーションからライカート『ファースト・カウ』も思い出す。
『ファースト・カウ』の主人公二人と同じく、シュテファン・ゴタという役者が演ずるルーマニアからの移民らしき男性=シュテファンの描かれ方はアンチマチズモ。整備工場の男性らが温めたスープを草の上で旨い旨いと食べるシーンも、いいなあと思う。その辺の川の土手みたいなところで食べるの。(この整備工場の整備士役の人は公開直前に亡くなったそうでエンドロールに献辞があった。)
作品全体の瑞々しさを決定づけているのがリヨ・ゴンという中国系移民役の女性(映画編集者/ミュージシャン/DJだそう)ではないか。彼女の化粧気が無く少し上気したような肌理の細かい頬が印象的で、苔と同じくらい潤って撮られている。苔をもとめて森へ分け入る学者の彼女にただただついて行くシュテファンという構図もまたアンチマチズモ。
マクロレンズで覗く世界に小さく小さくなって身を置くような経験。そこにある彼らの出会いもイノセントで微笑ましい。