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HereのT0Tのレビュー・感想・評価

Here(2023年製作の映画)
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2024.2.26 13-15

『ゴースト・トロピック』の後ですごい悩んだが、観て正解だった。こっちは、観やすかったし、良かった。

 暗がりの森をフィールドとし、ミクロな世界として広がるコケの生態を追う研究者と、死の気配をまとう都市の建設現場労働者の偶然的な邂逅。
 『ゴースト・トロピック』でも感じたが、この監督は明示的に人よりも場所を強調する。場所を撮る監督は、まあまあいるけど、この監督は特に「シルエット」、形にこだわるように思われる。光は陰影によって、街、建築、人、植物の姿を浮かび上がらせるように形を照らす。その静止してるようにしか感じられないゆっくりとした時間の中で、刻一刻と形態が変化する場所をショットに収める。その場所は、「力」でも「生命(人、動物、植物)の営み」でもなく、ただひたすら「形」である印象を、この映画には受ける。
 このようにこの映画をとらえるのは、あまり何を映そうとしているのか、あまり掴めないショットが多いからだとも思う。美しいのだが、何を意図してそのショットを挿入するのか、あまりよくわからなくなる時がある。しかし、それは監督の意図によるものとも言える。なぜならそのような場所こそ、無名の形に溢れた場所であるから。ショットは、ただひたすら無名な形を狙う。
 ただ、森の場面において挟まれる森のショットは、手前の暗がりに対して奥にある光を捉えており、場所から生命が立ち上がるような姿を映し出し、死の匂いのするマクロな都市に対するミクロな生命の営みを見せる。これはまさに、この映画の研究者と労働者の対比と呼応する。
 最後の場面のコケ研究者のリアクションは、一番好きなシーン。変わりゆく環境に応答するコケを観察する研究者が、偶然的に出会いそして去っていくものに対してリアクションする表情から、じっと冷静に場所を見つめるこの映画において、偶然的なドラマが刹那的に立ち現われる。
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