深夜もしくは早朝にバイトした後に映画観に行くとまあもれなく寝てしまうし、こういう作品ならなおさらで、全部は観れていないという留保付きだけど、かなり良かった。バス・ドゥヴォスの眼差す風景と生活に惹かれる。
この作品も『ゴースト・トロピック』同様に歩くという運動を捉える。しかし、その前に注目すべき運動があると思った。それは土地、場所の歴史という見えづらい運動である。シュテファンが工事していた建物の側には森があるし、二人が歩く森の側にはヨーロッパ初の電車が着いた場所がある。凡庸な都市と自然の対立ではなく、流動的で共存もすると捉えていると感じる。
そして森には苔がある。本作でフィーチャーされるのがこの苔(を見る/記録すること)だ。その場所に根差していて、人類より早く生まれて長く生きる苔だがあまり見られない。
それを記録するシュシュに注目する。彼女が苔を見るように、私たちは生活を見る。生活は苔と同じ様に、ただこの場所にあって見逃されている。物語にならない様な生活も、その人が積み重ねる運動。そこには愛すべき偶然性や他者との繋がり、優しさがある。
「あなたと季節の果物をわけあう愛から」と
歌うあの人のことを思った。
スープを分けること、靴紐を結んで立ち直す彼女に手を差し出した先で起こること、彼の名前を知らないこと、全部尊い。
