リチャード・リンクレイター監督とグレン・パウエルの共同脚本。人間はどれだけ今までの自分じゃない自分になれるか?そんなテーマに深刻でシリアスな人間ドラマではなくコメディとしてアプローチしていることにとても親しみを感じた。台詞の中に“偶然”という言葉が何度か飛び出し、この話は実存主義を意識しているのだろうなと思った。実在のゲイリー・ジョンソンもかなり多芸多彩な潜入捜査官だったようだ。映像的には今が飛びきり旬なグレン・パウエルを愛でる作品にも仕上がっていた。
中盤までは、ゲイリー(グレン・パウエル)が、惚れたマディソン(アドリア・アルホナ)の前でも機転の効く切り返しで、まんまと殺し屋ロンを演じ抜けていくのがとても愉快。2人が二進も三進も行かなくなる窮地に立たされるまでは面白い展開だった。
でもそのあとの事態解決がどうにも好きになれない。この気持ちよくない結末も、ゲイリーが大学で行った、大胆に挑むような哲学の講義が伏線になってはいたし、言ってしまえばテーマをしっかり踏まえた着地なのだろうけれど。脚本の終盤はテーマに従うか自然な展開にするか、落とし所に苦労したのではないだろうか。難しいところだ。
それでも今作ではグレンパの立ち姿を映す全身ショットがちゃんと見られて満足。今後は気のいいナイス・ガイから大きく踏み出した役柄と演技で一層楽しませてもらいたい。同僚ジャスパー役のオースティン・アメリオも味のある演技で存在感たっぷりだった。
字幕翻訳は星加久実氏。