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マリの話のnetfilmsのレビュー・感想・評価

マリの話(2023年製作の映画)
3.8
 この良い意味でキツネにつままれたような61分間4部作の奇跡のような快楽に身を委ねてしまう。率直に言って大変面白かった。上映後の中島歩さんとのトークショーで聞いた話によれば、もともと4部作の4話目が発端と言うか根幹にあり、高野監督は『悪は存在しない』もしくは『偶然と想像』のクランク・アップの為なのか何なのかフランスで物件を借り、脚本家の丸山昇平と共にこのような大胆な企みを施したのだという。第4話のフランス編からこのようなとにかくとち狂った脚本を導き出し、強引に『マリの話』とした高野徹監督のかなり強引な接着作業はこじつけに近いものの、着想的にトーンを抑え、禁欲的に物語を紡いで行く。第1話の明らかにホン・サンスな営み。映画監督が夢で見た女優に恋をした途端、現実に女優が現れるという目論みそのものがメタ的な映画内映画で、彼自身の悔恨こそが映画の骨組みになるのだが、ピエール瀧は微妙にお役御免で、その後はマリ(成田結美)の物語となる。

 果たして前後の繋ぎ目が通じたか否かはここでは議論されず、強引にスクリーンに照射されたマリの足取りに気を向けた人々による静かなアンサンブルが始まる。中島歩さんも成田結美とフミコ(松田弘子)を追った縁側のバック・ショットは素晴らしかったと絶賛されたが、あの場面の猫的な身振りには不意に驚く。人間であることを忘れたような猫的な振る舞いは極めて異色で、今後の可能性を観た。この日のトークショーで中島歩さんはもはや物語映画の物語に興味はないと言い、高野徹監督の実験的な映画作りを言葉を選びながら肯定する。ホン・サンスの影響で撮られた1話の話を聞いて、僕はミュージシャンではないがと言ったものの、YO LA TENGOの音楽に創作意欲を掻き立てられるというクリエイターズ・モチベーションの話、そして物語から作るタイプの映画ではなく、意図されぬ偶発性から着想される物語もまた映画であるという非常に熱を帯びたトークショーだった。
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