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辰巳のnetfilmsのレビュー・感想・評価

辰巳(2023年製作の映画)
3.8
 どこかの港町。解体工場が舞台で、組織の底辺にいる人間にはいつも面倒な汚れ仕事が舞い込んで来る。冒頭から唐突に映画は始まる、というか始まっている。いや、正しく言えば最初は過去形なのだが、主人公の辰巳(遠藤雄弥)はあの日の出来事に囚われているから、現在進行形で良いのだ。彼にとって禍々しきトラウマは全てこの街のしがらみにある。あの日別れた元恋人の京子(龜田七海)は今もこの街に居て、彼の歩みを見つめている。今作の組織が暴対法以降のヤクザなのか、それとも地方の半グレなのかは今一つハッキリしないものの、マリファナやシャブの売買に販路を求めるきな臭い集団だと理解する。然しながら限られた予算での製作の為、ごく僅かな組織内での裏切りや内紛はご容赦頂きたい。組織のトップを務めるのはアニキ(佐藤五郎)で、彼の元に居る1組の兄弟の勘繰りというか暴走が元となり、辰巳は組織内のしがらみの中に搦め取られて行く。そんな中、辰巳は元カノの妹・葵(森田想)と突然出会ってしまう辺りが、町のみんなは全て知り合いである限られた小さな町の物語にしては違和感も残る。要は行きががり上、彼女を助けてしまったがゆえに辰巳は組織にも、対立組織にも追われる身となるのだが、小さな町の暴走はすぐに起きず、警察の介入もない。

 私が今作を観て真っ先に連想したのは、ヒリヒリする様なアジアン・ノワールよりも、リュック・ベッソンの『ニキータ』や『LEON』だった。シャブ中で弟を失った兄貴の焦燥と麻薬の密売に絡む復讐戦により姉を失った妹との心の交流と親代わりとしての辰巳の宿命。特に後半、「おっちゃん」と呼びながら、姉の好きだった男性の心を今度も盗む妹のちゃっかりした愛嬌溢れる演技を、森田想が溌溂と演じている。シネコンで掛かる映画が暴力描写を制限する一方で、表現に制約を掛けない今作の捨て鉢な男臭さはなかなか魅力的に映るし、とにかく解体工場や森の中というロケーション選びも上手い。その一方で役者陣に関してはもう一回り二回り上の重厚な役者が1人は必要だったように思うし、警察の介入もなく、あまりにも狭い世界の中での出来事に終始しているのも気になった。今作の半グレ組織の規模感であれば、辰巳は葵と一緒にここではないどこかへ逃げることも出来たはずだが、犬猿の仲であったゴトウ(後藤剛範)との友情が辰巳を思い留まらせたと見ることも出来る。辰巳と弟の異母兄弟としての確執が姉妹の哀しみに点火し、竜二と兄の沢村兄弟という血を分けた兄弟姉妹と血みどろの抗争を繰り広げる。冒頭1シーンしか出て来ない藤原季節や中盤1シーンの足立智充、顔面凶器の渡部龍平の存在感も流石だが、竜二を演じた倉本朋幸さんの強烈な存在感に見入ってしまう。
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