ぶみ

ONE LIFE 奇跡が繋いだ6000の命のぶみのレビュー・感想・評価

4.5
彼が救った命が、未来を照らす。

ジェームズ・ホーズ監督、アンソニー・ホプキンス主演による実話をベースとしたイギリス製作のドラマ。
ナチスからプラハに逃れてきた子どもたちをイギリスに避難させたニコラス・ウィントンの半生を描く。
主人公となる活動家ウィントンをホプキンス、若き日のウィントンをジョニー・フリン、妻・グレーテをレナ・オリン、母・バベットをヘレナ・ボナム=カーターが演じているほか、ロモーラ・ガライ、アレックス・シャープ、ジョナサン・プライス等が登場。
物語は、妻とともに自宅で余生を過ごすウィントンの姿でスタート、その年代は私が見逃したのか、明確に語られなかったような気がしたのだが、タイプライターに固定電話が登場していたため、現代の設定ではないことが理解できたところ。
次には、1938年に遡り、株の仲買人であった若き日のウィントンがチェコのプラハでの子どもたちの惨状を目の当たりにしたことから、自身が住むイギリスのロンドンに国際列車で避難させようと東奔西走する様が中心となり、この過去パートと前述の現代パートが同時進行するスタイルで展開。
観終わった後に公式サイトで確認したところ、現代パートは1988年の設定であったため、その年代差は50年ということになるのだが、最初は若き日を演じたフリンがホプキンスとは結びつかなかったところ、観進めるうちに、何気ない仕草や、ふとした表情がそっくりに見えてきたため、その演技力は流石の一言。
何より、ナチス侵攻の裏で、669人もの子どもたちを救った人物がいたことは恥ずかしながら本作品で初めて知った次第であり、あれから80年以上経った今も、世界のどこかで同じようなことが起きているかと思うと人類の進歩のなさを痛感。
クルマ好きの視点からすると、現代パートでのウィントンの愛車が爽やかな水色をしたサーブ(多分99)の2ドアセダンだったのは見逃せないポイント。
そして、過去パートは「last train」の言葉を残して締め括られ、現代パートで迎えた結末は、全方向であらゆる感情を揺さぶってくるもので、エンドロールも含めてその余韻たるや極上のもの。
ホプキンスがメガネを取った際の眼差しが、一瞬ジョナサン・デミ監督『羊たちの沈黙』のハンニバル・レクターのような強いものだったのが印象的であり、そんなホプキンス演じるウィントンを中心とした当時の人々の行動が具にわかる展開や本作品の構成が、公式サイト等のあらすじでは書きすぎているきらいがあるため、私のようにほぼ予備知識なしで観ることを是非ともオススメしたいとともに、ジョナサン・グレイザー監督『関心領域』ではアウシュビッツ収容所の隣家を、本作品の前日に観たミハウ・クフィェチンスキ監督『フィリップ』では女性を誘惑することでナチスに復讐と、ここにきてナチス侵攻そのものではなく、その周囲で何が起きていたかを描いた作品が続く中、最も心動かされることとなった秀作。

見たものを見ないふりはできない。
ぶみ

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