Frapenta

タタミのFrapentaのネタバレレビュー・内容・結末

タタミ(2023年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

柔道を巧みに利用してここまで国家を絡めたサスペンスに仕上げられたのが驚き。面白い!


「亡命」という単語に対して、オリンピックでたまに話題になっているという浅い認識しかなかったが、今作は亡命の原因と救済する手立てを描いていたのでかなり解像度が上がった。

イランの選手がイスラエル選手と戦ってはいけないのかは、宗教上の理由だろう。イランはイスラエルを国として認めていないので戦わせることは国と認めることを意味する。昨今のイスラエルパレスチナ問題の根本にも関わる話だろう。
それはともかく、どんな理由であれこれまでの努力が水の泡となるのは許せないものだろう。しかし水の泡にしようとしているのは巨大な国家。そんな1人では到底及ばない力に、どう立ち向かうのか。普段の試合の数倍自分の命を"畳"に上げているのが強調される。覚悟を決めるレイラに心が熱くなる。相手、そして国家権力に屈するな、そう応援したくなった。

また、国家に反逆するのはレイラだけではない。監督のミリヤムもだ。
レイラが頭突きで割った鏡の前に立つことで、自分が今同じ状況に立たされているのをより実感したのだろう。
しかし、散々政府の犬になってレイラの出場を阻止しようとした挙句に終盤また監督業務に戻るとは都合が良すぎる。レイラが避けるのも仕方ない。
でも彼女も国家に消されてしまう可能性のある人物。立場が違ったことでレイラとのいざこざが起きてしまったが、境遇はレイラと全く同じ。実際最後の告白で、ミリヤムは過去に国家に屈してしまったことが判明する。ミリヤムはレイラの境遇を真に理解できる唯一の人物であったのだ。
屈して以降、嘘のベールを被せられて生きてきた彼女は、屈せず戦うレイラを守ってあげたかったに違いない。何の邪念もなく、思い切り戦わせたかったに違いない。そんなもどかしさが悩む顔の奥から窺える。

レイラとミリアムが最終的に同じ結末に至るのが面白かった。まさか2人とも主人公的立ち位置になるとは思わなかった。ちょっと社会的立場が違うけど、最高指導者の前では駒に過ぎないのが明確になった顛末だと思う。



柔道自体の話に移るが、これまた臨場感があって単純に面白い。手捌きによって柔道着が叩かれる特有の音や息遣いを大事にしてこちらに伝えてきていて息を呑んだ。試合として面白かったので、声援を送りたくなる気持ちもわかる。負けたら終わりのノックアウト方式がこんなにもスリル満点に生かされてるのは詳細な状況が伝わっているからこそだろう。特に息遣いに関しては、国家に監視される点でポリティカルスリラーのような恐怖感もあった。この映画は本当に柔道とサスペンスの相乗効果がすごく、いい映画だなと思った。
小ネタだが、海外でも技ありとか待てとか日本語で呼称されてるのも驚いた。実況は日本語でしか聞かないので、海外の実況を聞けたのは貴重な体験だったかも。実際はどうなんだろう。


人生初の東京国際映画祭であったが、非常に出だしが良い。思わず良作だらけなのではと過信してしまうが、どうなんだろう。
少なくともそう期待してしまうほどの良作ではあった。
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