ワンコ

アンダーグラウンド 4K デジタルリマスター版のワンコのレビュー・感想・評価

5.0
【今の世界も憂う】

この重いテーマを主にコメディに落とし込んだのは、戦争や紛争は、そもそもバカバカしいのだと、また、社会主義によって、人が考えたり、思考して対応する気持ちを失ってしまうことの悲哀を喜劇的に表そうとしたんじゃないかと思う。

映画「アンダーグラウンド」が、カンヌでパルムドールに輝いたのが1995年。
この時、スレブレニツァの虐殺が進行していた。

最後の「この物語に終わりはない」というメッセージは、様々な意味で多くの人に問いかけている気がする。

一義的には、ユーゴスラビア紛争が未だ終結していないということであっただろうし、世界はそれほど賢くなってはおらず、更に、こうした無思慮な争いの種は世界中に撒かれたままじゃないのかということだ。

ユーゴスラビアは、理想的な社会主義国家だと言われた時代が長くあった。

チトーの指導のもと多民族・多宗教で、社会主義を維持していたからだ。

しかし、カリスマ指導者チトーの死と、その後、起こった経済危機、ソ連崩壊による衛星国家と言われた東欧社会主義国家の離反をきっかけに状況は一変する。

民族同士で、そして、宗教間で争いが起きたのだ。

このアンダーグラウンドでの”50年”は、時期は多少ズレるにしても、チトーが共産党の要職に就き、第二次大戦で解放軍司令官、その後、首相、大統領と長きに亘りユーゴスラビアの指導的立場にあった時期と重ねようとしたんじゃないかと思う。

この間、人々は何と向き合ってきたのか、決して宴を楽しんでたわけではないにしても、問題があるだろうことは認識しつつも、傍観して、一体なにをやっていたんだろうと、そんな後悔ともつかぬ気持ちが込められているんじゃないか。

ユーゴスラビア紛争はいくつかのステージに分けられているが、約10年間紛争は継続した。

一応の終結を見てから20年以上経過したが、おそらく彼らの心の傷は残ったままだ。

そして、今、世界に目を向けると、ネットに垂れ流されるSNSやナラティブにどっぷり浸かり、モラリティから目を背け、リテラシーも養うことが出来ず、目の前にある問題に向き合わず、解決どころか放置もして、悪化してることにも気がつけず……、そんな状況があちこちに生まれている気がする。

もしかしたら、ユーゴスラビアだけの話じゃないのかもしれない。
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