zhenli13

アンダーグラウンド 4K デジタルリマスター版のzhenli13のレビュー・感想・評価

5.0
過去に再映されるたびに映画館へ足を運び、数年前公開された完全版を観たのはまだ一度きりだけど、初公開時からDVDも含めて自分歴代最多観賞作品のひとつのはず(ひとつの作品を公開中に数十回鑑賞するかたもいるので勿論比較にはならない)

長年観てて、マルコとナタリアの「愛」がますます純化され染み入るように感じられてならない…彼らが歳をとるに従い、他人に対するのとは正反対に、お互いに対しては真実しかなくなる。そのあたりのことは完全版の感想で既に書いてしまってる。

今回もラストのシークエンスで号泣だった。しかし最初の号泣ポイントは船上の結婚式のシークエンス。「クロ」が疑念と嫉妬を長年に渡って持ち続けることになる始まりで、マルコとナタリアにとっても、各々機敏に立ち回るために嘘ばかりついてきたのが、最も近しい者を長年に渡って欺き続けるために嘘を塗り固めていく始まりでもある。
マルコ、クロ、ナタリアの三人がMesecinaを歌いながらぐるぐる回る仰角アップを捉えるショット、三人ともに疑念と嫉妬と欺きをぐるぐるさせながら「あんたたちはほんとに一心同体ね」とナタリアは言う。その後の展開や、後年クロの息子イヴァンの結婚式でこのショットが反復されることを知っているからこそ、泣かずにいられない。

精神病院からナタリアの弟バタと、拷問されていたクロを奪還したマルコが「我々も彼らと同じ病人だ。診断がくだっていないだけで」と述べるシーンがある。
以前も感想に書いたが、マルコ、クロ、ナタリアの血縁者にはそれぞれなんらかの障害がある。マルコらは一見するといわゆる健常者ではあるが、嘘を吐き続けた生活と、嘘を吐かれ続けた生活により、三人ともそれぞれ「普通」ではなくなる。
幻想のラストでは、先天的な障害のあった者たちからそれらは「無くなって」いる。「健常者」であること、健常者しかいないことそのものが、幻想でしかないと言わんばかりに。吃音のあったイヴァン役のスラヴコ・スティマチは映画を観る我々に向かって最後の台詞をすらすらと穏やかに述べる。「悲しみと苦しみの歴史を語らずに、こう述べることはできないだろう。かつて、ここに国があったと」

https://filmarks.com/movies/76746/reviews/98474383

https://filmarks.com/movies/20439/reviews/98473509
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