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ショコラのあのレビュー・感想・評価

ショコラ(1988年製作の映画)
5.0
ついでに観て当たり引くとキマる。

飛行機のエンジン音に導かれて飛び出したフランスが、プロテに抱き上げられた神がかり的なカッティングは、結局飛行機を吸い込んだ地平線を見せませんでしたが、観ているこちらの中には山肌か大地に隠れていく飛行機が自然と補完されるのは、奇跡的な地平線や山々のロングショットの積み重ねがあったからでしょう。

肝心な時にあえて隠される地平線は、目に見えないけれども、台所や浴場で積み重なった軋轢の末の、肌の違いが不鮮明になる夜に起こった、リュックとプロテの一触即発により、人種間の隔たりとなって現れてくる。それを、性別の違いがあり、人種の違いがあり、歳の差がありながら、どこまでプロテに踏み込めるのかという一人間としての問いや、白い肌はどこまで黒人の間に入り込めるのか、という外国人としての問いの狭間で静かに揺れ動いているフランスの瞳が、消えていく飛行機の中に感じている。すべての要素が淡々とした画面の中で奇跡的に、そして有機的に融合している凄まじい映画でした。

白と黒のミルクとカカオが混じってできた「ショコラ」というタイトルは、ミルクとカカオはどこまで溶け合うのか、人種同士はどこまで溶け合うのかというテーマと最高にマッチしたこれ以上ないタイトルだと思います。

あといきなりフランスにアリを食わせるプロテに底知れぬ凄みを感じましたが、その後のフランスとの接触にはそれなりに危ないものを感じました。静かながら結構攻めています。

フランスにもプロテに対して世話係以上の感情を持っていたのではないかと思わせる眼差しがありました。しかし、側から見える大人の世界が、肌の違いを持ってして、二人を遠ざけてしまいます。

その失恋の痛みを火傷によってフランスは受けるわけですが、ここでなんとプロテと痛み分けをしている。ここで色々と察してしまいました...

故意にフランスに痛みの記憶を残したプロテ...なかなかスリルのある色男だ...

そして、フランスという名前を国名のフランスと置き換えても色々と考えさせられるので、なかなか良いネーミングだと思います。単純な言葉では割り切れない、人種間の普遍的な痛みの描き方が、全てにおいてまあ見事。そう考えると、アフリカ人と見せかけたアメリカ人の彼のアイデンティティについても色々と考えさせられる...色々と言及し出すとキリがありませんね。

それにしても、街灯のないアフリカの夜を完璧に作り出していた、ピンポイントで淡いライティングは、画面の枠を取っ払ってしまうくらい見事でしたし、先述の飛行機の不時着シーンも素晴らしかったですが、無事直った飛行機が上がっていくところに関しては、もうただ口を開けているしかありませんでした。ラストの何気ない空港の風景にすらも意味を感じました。色々と上手すぎる...

これは「美しき仕事」が楽しみ過ぎるぞ...!
あ