TakayukiMonji

すべて、至るところにあるのTakayukiMonjiのレビュー・感想・評価

すべて、至るところにある(2023年製作の映画)
4.0
リム・カーワイ監督の「すべて、至るところにある」を鑑賞。監督の作品は「あなたの微笑み」の予告編を見て知っていたけど、観たことなかった。観に行くきっかけは、Xでの監督のポストが流れてきたから。作品のポスターワークは記憶にあったけど、イメージフォーラム上映でノーマークの作品だった。(基本的に都内の主要劇場の上映予定作品はくまなくチェックするが。)
監督はポストで、観客がこの週末も1人しかいないかもしれない、という悲痛のような投稿をしていた。しかも毎回の上映の予約状況をスクショして、実況するように。何という現実。さらに”コロナ禍の後、自分がこの世界に対する思いを全身全霊で1本の映画に投げ込んで作った。それは自分の10作目の長編「すべて、至るところにある」。資金集め、制作、撮影、編集、配給まですべて自分がやる。その限界は誰でも目に見える。でも見に来て欲しい。感じて欲しい。”と呟いていた。

単純かもしれないが、こんなツイートを見せられて、興味がわかない映画好きはいないと思う。夜の90分の時間くらいこの作品に捧げてもいいんじゃないかと。
時間を捻出して、昨日作品を観てきた。監督にも会えた。

マレーシア出身のリム・カーワイ監督が追い求める”虚無”とは。日本語独特の言葉のニュアンス。
即興性の高いロードムービーは今の時代感にフィットしていないのかもしれない(興行がヒットするという意味で)。けれども、これは監督のオリジナリティであり、“シネマドリフターズ”を自称する監督が、世界の各地(今作含めた三部作はバルカン半島が舞台)目で五感で感じ得たものをそのまま落とし込んだような映像。確かに、everything,everywhereであり、人生の意味はどこにでもあるし、どこにもないのかもしれない。余白の多さ故に、観客に委ねられることが多いが、これもまた映画だな、と。観客はわずか4人しかいなくて、終了後のトークイベントも4人。終了後に、ゲストと監督の写真を強制的に撮らされる笑。
バルカン半島3部作は観てなくても大丈夫な作りだが、他の2作も気になり始めた。

アートとカルチャーと向き合う仕事をしている中で、この一連の出来事(リム監督が連日吐き出した呟き)は他人事ではなく、作品の良し悪し以上に、自主制作と興行を考えさせられる出来事だった。
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