2023年のジャン=ピエール・アメリス監督作品。彼の作品では日本未公開ながら『匿名レンアイ相談所(2010)』がフランスで100万人以上動員する大ヒットとなった。この作品はアガリ症の男女のラブコメディであったが、主演のブノワ・ボールヴールトは2015年のアメリス監督作品『Une famille à louer』でも大富豪とシングルマザーのラブコメディの大富豪役でも主演しており、アメリス作品との相性の良さが伺える。ボールヴールトとは『Profession du père(2020)』でも組んでおり、少年の目をとして描かれる英雄としての父親を演じている。ここでボールヴールトは持ち前のコミカルな演技だけでなく、シリアスさ、そしてそれを通り越して狂気の領域まで行き、息子にド・ゴール暗殺の手伝いをさせようとするトンデモ親父として登場する。しかしこの作品は内容の出来不出来と関係なく、新型コロナウイルスの影響で興行成績としてはアメリス作品としてワーストとなっている。 その後、日本でも公開された『ショータイム!(2022)』を経て撮られたのが本作『Marie-Line et son juge』である。 この作品では近年アメリス作品でブノワ・ブールヴールトが担っていた役割をミシェル・ブランが引き継いでいる。判事という役もあり威厳とユーモアのバランスの取れたいいキャスティングだが、彼は2024年10月に亡くなっており、彼の生前に公開された作品としては最後の作品となってしまった。キャストでいうと、ヒロインのルアンヌ・エメラも素晴らしいが、映画を勉強しながら映画館で働いている青年アレクサンドルをヴィクトール・ベルモンドが演じているのもインパクトは大きい。フランスを代表する大スター、ジャン=ポール・ベルモンドを祖父に持つ彼がフランソワ・トリュフォー作品『突然炎のごとく(1961)』の台詞について言及するシーンなど映画ファンはニヤニヤしてしまうだろう。