左幸子が監督。北海道追分で国鉄の保線を担う市蔵(井川比佐志)とその家族の30年にわたる物語。ドキュメンタリーを挟み、労働の尊さを描いている。かなり地味なので観る人を選ぶとは思うが、働くことの根本に立ち返れて、とても有意義な時間だった。
現代は「労働」が「仕事」より成り下がった感がある。「やらされている」「食べるためだけの手段」「自己実現できない」といった印象だろうか。
大学で専攻は労働法だった。大宅壮一の「アルバイトをしてはならない。労働しなさい」という言葉が若い頃に刷り込まれたからか、ビジネスでも、仕事でもない、労働という言葉が肌に合う。地に足をつけて働いている実感がある。汗を流し、心を配り、頭を使い、身体を使う。それらがうまく調和したときに、働く喜び、生きている実感が沸き上がってくる満足感。明日も頑張ろうと思う。
「保線の魂」という搗き固め音頭を歌いながら線路を掘り固める人々。
働く仲間がいることも喜びのひとつだ。
この作品の良いところは、労働=搾取の構造に安易に流さなかったこと。多面的に描かれていて、働く労働者各々の立場を否定していない。また、労働者から仕事を奪う社会の変化、とくに機械化も否定していない。主人公は、自分の技術を磨き、機械には置き換えられない、人間でしかできない五感のスキルを磨いていく。これもまた企業側はマンパワーに頼らないものに置き換えたいだろうが…
徹夜で土砂崩れのあとを直し、列車が通れるようになった時の万歳にうるっとした。どんなに機械化が進んでも、土砂を除ける機械が入らなければ、人力でやるしかない。市蔵は五感を使う。線路に耳を当て、最後に音で確認する。
最後の軍艦島のシーンは無人島になってからまだ2年くらいしか経っていないので、現在の廃墟とは違い、生活のにおいが残っていて生々しい。
夫が井川比左志、妻が左幸子、娘が市毛良枝、その婚約者が長塚京三。俳優以外、国鉄の労働組合の協力で実際の労働者が出演している。
希望あるラストのこの先、市蔵はどう変わっていったのか、気になる。