垂直落下式サミング

ハンテッド 狩られる夜の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

ハンテッド 狩られる夜(2023年製作の映画)
4.5
製薬会社の広報担当の女性が不倫相手と人里離れたガソリンスタンドに立ち寄り、併設された雑貨店で買い物を済またところ、何者かに銃撃される。誰の助けも来ない状況で、顔のみえない相手からの殺意に晒されてしまう。悪夢のような一夜を体感できる一作。
比較的短尺なワンシチュエーション作品で、登場人物も少ない。典型的な低予算作品ではあるものの、階層に分断されたアメリカという社会派ネタも盛り込みつつ、古くからある不条理スリラーとしての楽しさはしっかり確保されている。
否定されるのは「話せばわかる」という幻想。悲しいかな、この世には言葉を交わすに値しない人間がいる。会話したところで得るものがないなって、途中でコミュニケーションを投げてしまっていい状況は、誰でも出くわすことがあるだろう。厄介なのは、相手もそう思ってるってこと。
「なるほどウヨウヨのクソバカなのねダメだこりゃ。」と吐いて捨てるのはかんたんだけれど、そいつらが自宅や勤め先に街宣車で乗り込んでくるのは防ぎようがないわけですし、こっちがなにも言ってないのに、はなから逆上済みの人もいらっしゃるじゃないですか。お前らどうせ俺のことを下にみてんだろ!系の厄介な人。そういうことだからアホなんだよ。
にしても、アメリカに暮らす田舎の貧乏白人は、ここ数年でどんどん下にみられるようになったってことがよくわかる。アホ右翼、原理主義バカ、マヌケ陰謀論者、ホワイトトラッシュへのステロタイプなレッテル貼りは、確かに如何ともしがたい不毛ではある。銃乱射事件の犯人たちには、どんな境遇があろうともまったく同情できないけれど、分断によって割りを食っているのは、なにもマイノリティだけじゃないんだなぁと…。実際、誰も得してないじゃん。ドナルド君さあ…。
日々、そんな扱いを受けていたら、いい車に乗ってる奴は、俺のことバカにするインテリだから撃ってやれ!ってなっちゃうのかしら。GODISNOWHEREを背負い、狙い澄ましの無差別という行き場のない矛盾を撃ち込みながら、トランシーバーは自分の言いたいことだけ一方的に垂れ流す。同じ言語を話しているのに会話が通じない恐怖を描いた殺人鬼ものとしては、近年まれに観る秀作だった。
看板の下から、ついに立ち上がって迫ってくるところは、心底ぞわわっと…。もうダメなんじゃないかと思ったけれど、主役のキリッとした眉の女の子が、暴力に屈するものかと獅子奮迅の頑張りをみせてくれました!
製作のアレクサンドル・アジャよりも、監督フランク・カルフンという名前にもっとスポットライトが当たってほしい。『P2』クソ名作だからな。心身ともに痛めつけられる女を撮るという一点においては、突出した変態的才覚がおありです。お見事!