鈴木ピク

ゴースト・トロピックの鈴木ピクのレビュー・感想・評価

ゴースト・トロピック(2019年製作の映画)
4.7
知らない監督の知らない映画を鑑賞。
とある都市で、終電乗り過ごしてしまった中年女性が彷徨する一夜のスケッチ。
知らない都市なのにどこもかしこも見た事ある、夜の静かなうら寂しい光景の数々。
そこにいつかのイベント帰りの自分がいて、劇場の闇の中で記憶が溶け合ってた。

ル・シネマ入ったら4K公開に合わせて『ノスタルジア』の様々なポスターが並んでて、本編前にはシュミット『季節のはざまで 4K』の予告流れる(未見だけど亡霊そのものみたいな内容)』、その上での『ゴースト・トロピック』、映画館が幽霊屋敷になったよう。

館内の暗さもマッチ Hereも観たかったな。

いきなり幽霊の視座と語りで始まり、映画とはものみな世界の記憶の幽霊であるという、黒沢清が言ってそうな言葉を実践した内容。

ある一人の女性に寄り添いながら、彼女を支点として切り取られた世界が主題。
遠いベルギーの夜の街並みを何故か千葉や東京と見間違えたのも、普遍的な世界の夜が息づいてるから。

『ウェンディ&ルーシー』が不安に寄り添い世界を宙ぶらりんで彷徨うのと真逆の、非常に確信的なショットの精度。
深夜に静かな街を歩く時、確かにこの角度で見てる気がする 感覚に浸透してくる。
最初に歩かざるを得なくなりカメラ彼女から静かに後退→前進する(彼女の速度ではない)ショットへの切替。

こういう映画の持続感を出せる監督を無条件に支持マンわいですが、それとは別に世界の広がりへの信頼を感じる流れだった。
ある種非映画原理的 カメラが回ってなくても世界はあると信じてるというか。
君が一人でも、君がいなくても、遠い彼方でも、「今」を世界は覚えてる まるで映画みたいに。

サブスクでこれだけ多様な刺激に接する事が出来る今、ケリー・ライカートや本作バス・ドゥボスのように、しんと耳を澄まして目を凝らさないと掴めない作家が映画館で大切にされるの、なんかいいな。

『ファースト・カウ』に続いてまたも完全な夜の闇をスクリーンで うとうとするのも作品の内みたいな。
鈴木ピク

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