いずぼぺ

もっと遠くへ行こう。のいずぼぺのレビュー・感想・評価

もっと遠くへ行こう。(2023年製作の映画)
3.7
最後の30分まで平坦で落としどころが心配なくらいだったが、そこからが一気に面白くなった。
宇宙に移住するなど設定は確かにSFなのだが、本質的には一組の夫婦の物語である。
荒廃する地球のなかで築200年ほどのポツンと一軒家で結婚後8年、二人だけで暮らしてきたふたり。この家は夫の一族が代々暮らしてきた家だ。
移住に向けた段階の一環でふたりは自分のことやお互いについて語らなくてはならなくなる。夫が留守の間代わりに妻と暮らす夫のクローンのために。
その語りによって記憶を構成させたクローンは「彼」なのか。
そもそも語りは語り手の視点からのものであるし、すべてを語るとは限らない。特に夫婦関係など近しい関係であればあるほど、「あえて言わないこと」や「自分でも否定してしまいたい感情」がある。

最後まで見終わると、いろんなシーンにパンくずが置かれていたことに気づく。そして、綿密に構成されたセリフのあちこちにキーワードが。室内に散りばめられた象徴。
万人受けはしないだろうが、なかなか示唆深い作品だと思う。
85