MasaichiYaguchi

Pina ピナ・バウシュ 踊り続けるいのちのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

3.8
この作品を観るまで、感受性の強い、少女の面影を残す天才舞踊家・ピナ・バウシュのことを知らなかった。
本作品は、2009年に急死した彼女に捧げるオマージュであり、絵画や彫刻の様に「留まらない」芸術、一瞬一瞬変化し、その動きのなかで紡ぎ出される「美」を、ヴィム・ヴェンダース監督は、「映画」という記録媒体に残したかったのではないだろうか。
しかし、この作品は万人向けの映画ではない。
「肉体言語」で表現される本作品は、頭で理解するのではなく、五感を全開にして、心で観る映画だと思う。
映画は正に、「劇場の幕開け」から始まる。
舞台袖に司会者が登場し、演目の為の舞台作りから映し出されていく。
この瞬間から、観客はピナ・バウシュの劇場空間に取り込まれていく。
私は学生時代から前衛演劇を観てきたので、この導入部から比較的にスンナリ入っていけたが、アート系に慣れていない人は、この時点で拒絶反応が出てしまうかもしれない。
全編殆ど、ピナ・バウシュの魂を受け継ぐ者達によるダンス、ダンス、ダンス!
そのダンスも、劇場に収まらず、街中や公園、モノレールの中、工場や荒地等、様々な所で繰り広げられる。
ダンサーや、ダンスの経験のある方は、観れば分かると思うが、贅肉の無い、研ぎ澄まされた肉体が画面狭しと躍動し、指先、爪先まで神経の行き届いた仕草やステップに圧倒され続けだった。
そのダンサー達も、若い人ばかりではなく、中年や人種もアジア系や中東系等、様々だ。
彼等、ピナが愛した団員が、一人一人、インタビューに答えるシーンが何度も登場するが、一様にピナに対する心からの尊敬や愛を表明していて、如何に彼女が愛されていたか、ストレートに伝わって来る。
印象的な台詞と映像の劇場シーンで終幕する本作品。
単なる「ドキュメンタリー」を超え、「アート」と言っていい領域まで高めた、ピナ・バウシュとヴィム・ヴェンダース監督に敬意を表します。