映画大好きそーやさん

犬の映画大好きそーやさんのレビュー・感想・評価

(2023年製作の映画)
3.2
逃げ場のない環境下における、「犬」の咆哮。
主人公である楓(小川あん)は、職場にも自宅にも自分をわかってくれる人はおらず、毒親に育てられたことから起因する自己肯定感の低さも相まって、人生に言い得ない圧迫を覚えています。
機嫌を損ねてしまった夫からは手を振るわれ、上司から気に入られているがために多少のミスは許され、その結果周囲の同僚たちからは嫌われて、さらには親からの連絡で痛いところを突かれと、踏んだり蹴ったりの板挟みで心が摩耗している中、ある日の夜に見知らぬ女から「犬」のように吠えられる体験をします。
それ以降、その体験が忘れられず、そこからどんどん奇妙な方向へと物語が突き進んでいくのです。

※ここから先はネタバレも含まれますので、観た方、もしくはそのことを了承してくれた方のみお読み下さい!

本作において、「犬」は重要なモチーフです。
一般的な「犬」のイメージで言うと、上の者に従って動く駒といったものでしょうが、本作の「犬」はその文脈とは違った意味合いが重ねられている気がします。
「犬」が吠える時、それは価値観の逆転、革命が起こる瞬間です。
楓が吠えられたことで、非日常に足を踏み入れていき、奇妙な交流をもって、社会的には誤った方法で復讐を果たしていくという流れは、革命の道程を辿っていたと言っても過言ではないと思います。
負け犬という言葉もありますが、だからこそのジャイアントキリングが気持ちいい、最後の咆哮こそ至高であると、高らかに宣言して終わる威勢の良さは、素晴らしいという一言に尽きるものでした。
あと、視線の誘導などが自然で、不可解な描写とリアルに迫る描写のバランスもなかなか良く、映画的によくできた作品だと感じました。
1点気になった場面として、夫が食い殺されるシーンがあったと思うのですが、もっと全体的にしゃぶり尽くして、小さな肉塊が地面に転がっているくらいまで鮮烈にした方が、犯したことの大きさ含めて良かったのかなとも思いました。
総じて、抑圧された社会に生きる誰もに刺さる、アバンギャルドでパンクな作品でした!