ニコチンロイド

HIDEO KOJIMA:CONNECTING WORLDSのニコチンロイドのレビュー・感想・評価

HIDEO KOJIMA:CONNECTING WORLDS(2023年製作の映画)
4.5
小島秀夫という、伝説の男がいる。
彼がいかに育ち、ゲーム業界へ入ったか、彼がいかに特異なのか、を周囲の人々(超豪華)が教えてくれる60分。

僕がはじめて彼のゲームに触れ、衝撃を受けたのは忘れもしない10歳の頃、「メタルギアソリッド2」だった。
マンハッタン沖の海上施設の、海鳥が飛び交う屋上で、主観視点で空を見上げたら、カメラに鳥のフンが降ってきた。

くだらないことのように感じられるかもしれない。だけど、プレイヤーが「そりゃそうだよな」と感じられるフィードバックがきちんと仕込まれたゲーム体験は当時は特に珍しかった。
エロ本を持って女子トイレに隠れたら無線で上司と恋人にドン引きされるとか、一時が万事「こんな行動にもリアクションが帰ってくるのか!」と衝撃を受けたのだ。

「当たり前」なことを、限られたリソースの中でやることの難しさ。
実はそこにこそ、非常に特異な視点が求められる。
小島秀夫という鬼才が持っているセンスの要は、まさにそこにある、と僕は思っている。

個人的な話になるが、僕の映画や音楽、ファッション、あらゆる趣味嗜好の起点は間違いなくこの人から受けた影響だ。俺の半分はHIDEOのものだ。
007、ニューヨーク1997、タクシー・ドライバー、ブレードランナー、エル・トポ、マックイーン、デヴィッド・ボウイ、冒険小説、SF小説、UKロック、ニューウェーブ、映画の服装を真似すること、伊藤計劃、これらは全部小島秀夫の影響で出会った。
この人がいなかったら僕は、今の自分とは全く異なる人間になっていたと断言できる。

残念ながら彼のキャリアの代表作である「メタルギア」シリーズはもとより「スナッチャー」「ポリスノーツ」そしてゲームばっかりしている子どもを外に出す!という逆転の発想で生まれた「ボクらの太陽」などのコナミ時代のタイトルに関しては触れられない(MGSV発売時の混乱や独立時の話も殆ど語られないのでまあ色々あるのだろうと察せられるが)。
でもやっぱり小島秀夫という人の凄さを語るのならばコナミ時代のゲームが如何に独創的だったのかを語ってほしいものではあるが、そこはもう諦めて故・伊藤計劃氏による「小島秀夫——我ら神亡き時代の神の語り手として」や「エクストラポレーション礼賛」「制御された現実とは何か」などのエッセイを読んでほしい。
ネットで読めるものもいくつかある。

小島秀夫に影響を受けた「恐るべき子供達」はすくすくと育って、今まさにそれぞれのシーンの最前線を走っている。星野源、三浦大知といった、自分の大好きな天才達が、実は小島秀夫のファンだったことを知った時の喜びはいつもある。それは間違いなく「つながり」だから。

だが、今は亡き伊藤計劃こそ、小島秀夫のミーム、ジーン、センスを最も受け継いだ人だったと思う。
そしていまの小島秀夫は、伊藤計劃のそれをまた受け継ぎ、未来へと歩を進めている。
彼の次の、そしてまたその次のステップを永遠に追いかけていきたい。