つう

ラストマイルのつうのレビュー・感想・評価

ラストマイル(2024年製作の映画)
3.8
『野木亜紀子が凄いのか?パトレイバーが凄いのか?どっちなんだい!?』

大手ショッピングサイトが仕掛ける巨大セールイベントが開幕する前日、物流センターから配達された商品が爆発するという事件が発生する。テロ行為として話題になる中、物流を止めることなどできないと配送を止めることをしないという強気な姿勢を取る物流センターの新任センター長のエレナを満島ひかりが演じる作品。

TBSで放送されたTVドラマ「アンナチュラル」「MIU404」でタッグを組んできた脚本家の野木亜紀子&塚原あゆ子が手がける作品。上記の2作品と世界観を共有しており、それぞれのキャラクターたちもサラッと登場するということでも話題となっています。

初日の朝の上映から席は満席で、ようやく21時過ぎ上映開始のレイトショーで鑑賞できましたがその回も満席でした。めっちゃ注目度高いんだなと驚きました。

自分は上記2作品のTVドラマシリーズは未鑑賞。

映画のキャラたちにガッツリ絡むというワケでもないですし。

ドラマメンバーがノイズになっていない絡ませ方は良い作りになっていたと思います。

近年のこういうシュチュエーションの作品で言うとキムタク主演の「マスカレードホテル」なんかは巨大ホテルの営業を止めることなく刑事がホテル従業員として働くことで潜入捜査をするという作品でしたが今回の「ラストマイル」はショッピングサイトの物流倉庫のセンター長が主役というのが特徴です。

非常に良かったです。こういうTV局製作の邦画大作と考えるとと頭一つ抜けている出来でした。

むしろ自分はドラマ畑ではないので世間で言われているほど塚原&野木コンビというのは凄腕の監督、脚本家という印象はなかっただけに観る前は懐疑的だったので良い意味で裏切ってくれたと嬉しくなりました。

Amazonのような大手ショッピングサイト、そこと提携しているヤマト運輸、ヤマトから下請けをしている個人配送業者、それを購入する客というレイヤーを使って首都圏を大きな1つのフィールドとしたグランドホテル方式で描いていくというような描き方は何かセンセーショナルなことを描写しなくても最後まで楽しく観れたので、この塚原&野木コンビは社会問題を上手く内包するという風に聞いていたのを初めて、そこに納得できました。

興行を見ても人が入っているし。実写邦画の興行面では今年のベスト3に入るだろうという勢いを感じますし。売れるだけの要素や面白さを持っている作品だと思います。

SNSでは絶賛されていますし。フィルマークスもコレを書いてる時点で評価4.3と高評価な中、申し訳ないですが個人的には年間ベスト10とかに入るような出来ではなかったです…正直。

そこについて言及していきます。

①脚本

これは非常に上手くやっている。やっていますが…うーんという部分もあります。

「パトレイバー」過ぎるという部分ですね。「パトレイバー」といえば、警察というのを普通の公務員のサラリーマンとしての姿を描いた作品で、そこを元ネタにした刑事ドラマ「踊る大捜査線」があったりします。「ラストマイル」との共通点としてはTVドラマシリーズからの派生した映画化ヒット作品の先駆者作品でもあります。

「踊る」シリーズは「パトレイバー」の警察をサラリーマン的に描くという部分を描く部分の大枠の設定を踏襲しています。この「ラストマイル」は「パトレイバー」の、とあるエピソードのプロットをなぞっています。これを知らないとは言えないくらいにはガッツリなぞっています。これがどこのエピソードというとガッツリ、ネタバレになるので言及しませんが、ストーリーに関わらない部分でいえば「パトレイバー」の第1話と最終話のタイトルは「ライトスタッフ」です。第1話ではライトスタッフのルビには軽い人々。普通の人たちって意味ですね。そして、最終回のルビには正しい資質と書かれています(映画のライトスタッフのそもそもオマージュタイトルなんですが)このラストマイルも大手ショッピングサイトの会社理念というのが途中で意味合いが変わっていくというのが言及しているとか…というか「アンナチュラル」は観てないけど「ラストマイル」で数分だけ出てきてドラマメンバーでの日常シーンのやり取り見てると、あー「パトレイバー」のノリ好きなんだなってのは伝わってきますw

プロットをなぞっているものの、それを上手く使って二次創作的に上手く書いているなとは思います。でも、そういう脚本のテクニカルな部分は誉めたいですが、この事件のトリックというか構造はなぞっているだけなので、諸手で評価をするとは言えないです。

ここまで酷評していますがオリジナルが全くないワケではなく満島ひかりのキャラを含めて舞台装置としてのキャラクターになってしまっているなぁと感じましたが下請けの配送業者の火野正平と宇野祥平親子の描き方は良かったと思います。そこが一番、厚みを感じられたし人間味を感じたキャラクターでした。これは「パトレイバー」の要素が介入していない部分で良いなと感じました。

あとラストのオチの解決も映画オリジナル部分でしたが、この描き方も良かったです。良い意味でフィクションめいていて良かったです。野木亜紀子ってロマンチストなんだな。イイぞ!イイぞ!ってなりましたw

②映像

脚本は言っても面白いんですよ。予算の使い方も上手いと思うんですよ。

Amazonっぽさや物流センターとかの部分などは小道具や美術は…

この映画の評価が突き抜けないのは映像部分。ルックがメッチャメチャTVドラマっぽいんですよね。爆発シーンなどのCGなども含めて頑張ってはいるものの豪華な予算を使ったTVドラマSPという印象しかないので、今すぐ大迫力のスクリーンで見て下さいというのがないのが欠点。

③音楽

ガンガン音楽で泣かせたり感動したりというのをしないのは良いんですけど…

映像がTVドラマっぽくて映像に惹かれていかないのに音楽は薄味。

この出汁、丁寧で上手いけど、これをガブガブ呑むようなモノじゃないよね。いっても只の出汁だしって感じ。

なので全体としては脚本〇映像△音楽✕といった感じですかね

野木亜紀子の凄さの片鱗は垣間見えたが塚原あゆ子は正直、普通の域の出ない監督という評価になりました。

そこを言っても近年のTV局製作の映画作品としては十分過ぎるほど良くできた作品です。

「パトレイバー」のどのエピソードをなぞっているかはコメント欄にてネタバレ伏せコメントとして書いておきます。
つう

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