カタパルトスープレックス

ヴェルクマイスター・ハーモニー 4Kレストア版のカタパルトスープレックスのレビュー・感想・評価

4.3
タル・ベーラ監督のパンク魂のこもった作品。「文明と破壊」の衝突点。

主人公のヤーノシュは天文学が好きな無垢な若者。そんなヤーノシュの視点でストーリーが展開されます。広場にクジラを見世物にするサーカス団。徐々に集まる人々。そして生み出される不穏な空気。いろんなことに巻き込まれて翻弄される。観客は何が起きてるのかさっぱりわからない、それはヤーノシュも同じ。一体何がどうなってる?

圧倒的傑作『サタンタンゴ』や『ニーチェの馬』と比べると少し物足りなさを感じるものの、本作のような衝動もタル・ベーラ監督なのでしょう。クジラは何を意味するのか?プリンスは?観ている時は何が何やらとヤーノシュと一緒に狼狽えるしかないのだけれど、あとからスルメのように考察しながらあれこれ考えられる。それは、まさにタル・ベーラ監督作品の特徴ですよね。

テーマは「破壊」なのだと受け取りました。生み出されるもの、築き上げられるもの、すべて偽り。その名は「文明」。子どもたちの大騒ぎも、大人たちの暴動も「文明」の破壊という意味では一緒。エステルの創作活動も、プリンスの煽動も一緒。では、その良し悪しの境界線は?これがタル・ベーラ監督の問いかけでしょう。