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ゴジラ-1.0/CのKayFilmのネタバレレビュー・内容・結末

ゴジラ-1.0/C(2023年製作の映画)
1.5

このレビューはネタバレを含みます

 周囲のあまりの評判の良さに4DXにて鑑賞。しかし劇場を出て首を捻るばかりだった。もちろんゴジラの大暴れは大変楽しめたし、VFX全体としてもハリウッド並みとまでは行かないまでも、限りあるリソースでよくぞここまでというレベルを達成していたと思う。だからこそ、「惜しい」と思ってしまうのだ。

 まず主人公に感情移入できない。
 敷島は特攻から逃れたのみならず、大戸島の整備兵も自らの不作為で全滅させてしまう。わかる。その負い目を持ったまま戦後を生きねばならない。その自責の念たるや如何程だろうかと想像する。が、しかし。彼の行動は内省的というよりむしろ徹底して「上から目線」である。

 例えば、同棲相手となぜ結婚しないか問われ「俺の戦争は終わってない」などとイキって見せる。本来自責の念に駆られているならば、「俺にはその資格が無い」と下を向くのではないか。

 あるいは、大戸島で生き別れた整備士を呼び寄せる時も、隊の全滅は整備士のせいだと言いふらすという、およそ「日本人」と思えない極めて卑怯な方法を使う。仮にも自分の不作為で部隊を全滅させてしまった自覚があるなら、全ての遺族に写真を返し、線香の一つも上げた上で、整備士に土下座をしてでも頼みこむというのが真っ当だろう。

 さらに、海軍が集められ、ブリーフィングの後に、作戦の成功確率が高くないことを聞かされ、怒って出ていこうとする。「自分の戦争を終わらせたい」というのなら、成功する見込みがなくても志願するのが話の筋だろう。一体彼は何がしたいのか。

 整備士の動機も謎である。自分の仲間を全滅させた男に、仲間の形見である大事な家族写真を渡す気持ちがわからない。
 また、ヒロインが銀座に働きに出る動機も不可解だ。本気で彼に嫁探しさせたいなら単に出ていけばいいだけだ。

  全くもって行動に動機も一貫性もない。ただ「台詞がカッコよく聞こえる」「画面がカッコよく見える」という「思いつき」で行動「させられている」ように見えるのだ。そのため、全ての役者が酷い演技をしているように「見えて」しまっている。かろうじて自然な演技に見えるのは子役だけだ。

 それと同様に、ゴジラ自体も都合の良い時に、都合の良い場所にピンポイントで現れ、また去っていく。主人公がカッコよく飛行機で現れれば、ふらふらとナウシカの蟲笛に惹かれる様についていく。こちらも「主人公がカッコよく見える」ための引き立て役になってしまっている。

 上記は主に脚本の不備からくる問題だが、演出の問題も顕著である。
 例えば、掃海艇が木造のボロ船だったというネタ。シーンチェンジでいきなり木造船を見せる演出は良い。しかし、残念なことにその直前のシーンで「磁気機雷対策の船」などと不必要な説明台詞を主人公に言わせてしまうことで、このシーンチェンジのインパクトが台無しになっている。

 その後海上にゴジラが現れ、時間稼ぎの後に戦艦が現れるが、何故か乗組員がデッキで持ち場にもつかず右往左往するだけ。もしや『シン・ゴジラ』の真逆を狙ったのか、プロ意識のかけらもない。もしかして彼らも戦艦に乗務したことない民間人なんだろうか?

 あるいは、銀座のモブシーン。きちんと全力で逃げているエキストラには好感が持てるが、まず逃げる方向が全員同じ、ゴジラの進行方向。そこまではまあ良いとしても、なぜかゴジラが怪光線を吐く段になると、みなすっかりおとなしくなってしまって棒立ちで見守っている。不自然極まりない。

 また、ゴジラに襲われる夢を見るシーンでは、1カット目から「このシーンは夢だな」というのがバレバレの演出で緊張感が全くない。

 さらに、危険な作戦に若者を参加させないために建物の入り口で彼を置き去りにするシーン。若者は「何故ですか!」と叫びはするが一歩もその場から動こうとしない。小走りで追いかければすぐ追いついて問い詰めることができるのにも関わらずだ。どうみても演出のミスにしか見えない。そのくせ作戦が始まったらすぐ漁船で登場する若者に対し、船長は「来やがったな」などと嬉しそうなリアクション。なら最初から連れて来ればよかったのでは?

 そして重要な脱出装置のくだり。整備士が爆弾の安全装置の説明をするまでは良いが、その後も何やら説明を続ける姿を長々と映してしまう。勘の良い観客でなくても、「ああ、きっと何か仕掛けがあるんだな」と勘繰ってしまう。そんなバレバレの伏線よりも、男同士、視線で語り合う様子を見せて欲しかった。

 最後にもう一つ、病院に子供を抱きかかえて入室した主人公が、奇跡的に生還したヒロインを見て、子供を放り出して駆け寄り、オイオイと涙を流すシーンに絶句した。子を持つ親ならわかるはずだが、あの状況なら子供がまず絶叫して飛びかかり、狂喜乱舞するだろう。子供がおとなしく順番を待っているのは極めて奇妙な演出に見える(ただ、このシーンに限っては、首元の不穏な兆を見せているので、もはや彼女が人間ではないというオチなのかも知れない。その場合は子供が真っ先に気づくというのはアリだろう)。

 数え上げればキリがないが、何も重箱の隅を突いている訳ではなく、一つ一つが致命的なほどお粗末な演出ミスに感じられてしまうのだ。これによって主人公に感情移入できないだけでなく、ストーリーにも没入できなくなっている。

 演出といえば、今回散々指摘されているように、歴代ゴジラだけでなく、さまざまなハリウッド作品へのオマージュと思われる演出が多数見られた。オマージュ自体はあっても良いけれど、うまく消化できたとは言い難い。
 そもそもゴジラがティラノサウルスになったり、ジョーズになったりする必要があるのだろうか?正直違和感しかなく、パロディ映画を見ているようで、一気に冷めてしまう。

 必要があるのかといえば、これが一番の核心となるが、そもそも戦争や特攻、原爆といったシリアスなテーマを持ち込む必要があったのか?ということだ。これらは軽々しく扱えるテーマでないことは自明であり、制作者の姿勢が厳しく問われる部分でもある。だからこそ「ゴジラ映画になに眼クジラ立ててんの?」では済まされないと考えるのは自分だけだろうか?

 とはいえ、本作が興行的に成功したり、海外で評価されること自体は素晴らしいし、応援したい。行けるところまで行ってほしい。ただ、映画としての評価は、この熱狂が冷めた頃に明らかになるのではないかと思う。

 おそらく続編が作られるであろうから、個人的には次作に期待したい。その際は、優れた脚本家・演出家をチームに加え、山崎監督はアクションとVFXに徹しては如何だろうか。皮肉ではなくそうすることで本当に凄い作品ができると思う。

P.s. モノクロ版としての評価は、カラー版を未鑑賞のため比較できないが、全体としては可もなく不可もないと感じた。ただ、ゴジラの再生や、ダメージなどの表現は、おそらくカラー版の方がわかりやすいだろうと想像した。というかモノクロ版では正直よくわからなかった。逆に、バラックの朝ドラっぽいセット感はやや緩和されて見えていただろうと思う。
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