尾崎きみどり

箱男の尾崎きみどりのレビュー・感想・評価

箱男(2024年製作の映画)
4.0
原作も昔読んでたけど難解だった。映像化されたらちょっとは分かるかと思ったがやっぱり難しかった。ただかなり見応えがある骨太の映画ではあった。作家性の強い作品なので好き嫌いが分かれる映画だと思う。自分は好き。映画というより難解よりの演劇に近い印象を受けた。
話は分かりにくいが、演出に独特の味があって良かった。
モノクローム画面で始まる実験的なオープニングや箱男の不気味な登場、箱男の独白が空や壁に書き出されたり、サイケな万華鏡の中に目があったりと尖っていて好き。箱男同士の対決やルンペン乞食に襲撃されるシーンは真剣なのに冗談っぽいのがシュールで良かった。
エンドロールなどの文字を役者スタッフ全員が各々自分で書いてるのも凝ってていい。
映画的に脚色している部分は多々あったが、原作の要素と上手く噛み合っている。ほとんど原作のままには驚いた。安部公房先生の作品を石井岳龍監督が味付けすると意外にも相性が良いのには驚いた。もっと反発し合うのかと思ったが作風同士が溶け込んで不思議な相乗効果を生み出していた。
役者に関しては演技派の方を起用しているので危うげなく見られる。
ただし有名な役者だからといって知名度に頼らないのがすごい。主役は箱男なのでほとんどの場面は文字通り箱に入っている。後々ヒロイン以外のメインは全員箱を被る。そのため役者のビジュアルはほとんど意味をなさない。代わりに声と箱から覗く目の表現に重きを置いている。その点で主演永瀬正敏氏の低く響くような声と力強い目線はこの作品には不可欠だった。
共演する浅野忠信氏と佐藤浩市氏もこの点では申し分ない。ヒロイン葉子を演じている白本彩奈氏も蠱惑的で印象的な台詞回しがある役どころで良し。原作と比べてやや人間味を増しているのは監督の作風故か。ルンペン乞食役の清川渋彦氏もいい感じに狂気に満ちていて大変良かった。
箱男という「全てから完全に解き放たれた存在」を目指す人間の悲哀や寂寥感は充分に感じられた。ただ役者達は少し年齢を重ね過ぎではとも思う。しかし今の若手俳優諸氏が演じるとなると少々荷が重いかもしれない。
予告編やツイッターでの公開映像ではあっちこっち走り回る箱男が見られたが、改めて映画で観ると箱被って中腰で走るのはかなり辛かろうなと思った。メタルギアっぽいなあと思っていたが、後で調べたらゲームの方は原作にオマージュを捧げていたそう。
最後の仕掛けは映画ならではで思わずニヤリとした。
原作者である安部公房氏撮影のスチール写真が冒頭で使われていたのは嬉しい。現在は新潮文庫に挿絵として載っているので、確認したい方はそちらをご覧ください。
尾崎きみどり

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