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ザ・タワーのnetfilmsのレビュー・感想・評価

ザ・タワー(2022年製作の映画)
3.2
 予告編を観た時点では、J・G・バラードの傑作SF小説『ハイ・ライズ』と今年のイスラム映画祭で再見し、改めて傑作だと思ったマチュー・カソヴィッツの『憎しみ』を足して2で割ったような物語だと思ったのだが、その斜め上行く陰惨な展開に肝を冷やす。これは一言で言って暗い作品だ。様々な人種が住むフランスの団地。アシタンはある朝目覚めると、窓の外が漆黒の黒(闇)で覆われていることに気付く。いかにも低予算映画が考えつきそうな終末論が今作を覆う。その「闇」に物を投げ入れると物体は消滅し、体が触れるとその部分が鋭利な刃物で切られたように消えてなくなってしまう。何を言っているかわからないと思うじゃないですか。然しながら闇は今作では正に鋭利な刃物で、人の身体を中途半端に投げれば中途半端なサイズに真っ二つに切り取られてしまうのだ。テレビやラジオの電波は途切れ、携帯電話も圏外となっているが、なぜか電気と水道は使用可能だ。 数ヶ月前の韓国映画で、イ・ビョンホンの『コンクリート・ユートピア』という映画あったが、今作の世界観はかなり似通っている。

 原因不明の「闇」のせいで、建物の中に足止めされる団地の住民たち。外の世界と遮断され閉じ込められたままの彼らは、知り合いや人種ごとの小さなグループを形成していく。徐々に正気を失っていく彼らの間に争いごとが起こり始める中、各々がイデオロギーではなく、人種ごとに結び付いて行く有り様が心底胸糞悪い。心なしか同じフランス産の『リンダはチキンがたべたい!』や『憎しみ』同様に今作も貧民たちの公営住宅が対象になるのだが、屋上のような開放感のある空間は絶対に登場せず、ある意味閉所恐怖症に陥るような壁の中の陰惨な描写だけで物語を紡ごうとするから最悪だが、トランプ辺りは今作をこれぞリアルとしてワンチャン支持する可能性もあると見た。とにかく人種や宗教での差別や分断が中盤から物語を跋扈して行く。主人公のようで主人公ではないイスラム系の女性はジョン・カサヴェテスの『グロリア』のような命の危険を感じた時点で、類まれなる母性を発揮するかに見えて、フランス独立系の映画はハリウッド的な門切り型のハッピー・エンドに物語を導くのではなく、グローバル資本主義による問題提起だけを我々に投げ掛けてくる。結局、何年経とうが周囲の状況が解決しないのもひたすら胸糞が悪い。
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