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虎を仕留めるためにのくりふのレビュー・感想・評価

虎を仕留めるために(2022年製作の映画)
4.0
【しかし虎の数だけ狩人が要る】

Netflixにて。ようやく日本語字幕がついたので見てみると、必見と言っていいドキュメンタリーでした。

インドでは“20分に1度”起きているレイプ犯罪。本作はジャールカンド州の村で、13歳の少女が三人の男に集団暴行されるが、泣き寝入りせず、父親と共に、訴訟へと立ち上がる顛末を追っています。

インド事情を多少なりとも知っていれば、これは大変な事態だとわかります。カメラは被害者の家族を、内側から見つめていきますが、徐々に、恐怖の水位が上がってくる…。“ムラ社会”という暴力装置の!

作品が仕上がったのは2022年。被害者の少女はその頃20代となっていたそうですが、ようやく“顔出し”の決心がついて、完成したようですね。事件自体は、世界をギョッとさせた“2012年インド集団強姦事件”と同じ頃に起きたのではないでしょうか。

父親の葛藤がリアルです。“村八分”どころかリンチに発展しかねない中で、心も折れかかって酒に逃げたりする。が、強そうに見える母親も、映されないだけで同じように、不安を抱えていたことでしょう。

娘のキラン(仮名)ちゃんが健気です。インド映画では警察が無能なのが定番ですが、現実に、本当に無能な担当捜査官が登場しちゃう!彼の役立たず証言のおかげで、キランちゃん証言の重みが増していく。裁判の予行練習で、やはり折れかかる彼女を見ると、いたたまれなくなる。

…でもなあ、そんな彼女や家族を見ても、レイプ犯は何とも思わないのだろうね。過去、女性差別上等のマヌ法典を信奉してきた家で生まれ育てば当然、そうなるわな。

あと、本作でどう当てはまるかはまだ、不勉強でわからないが、カースト差別も影響強いのでしょう。

当面は、刑罰によって外側から思い知らされるしかないのかな。住みたくはないね、こういう場所には。

一家をサポートするスリジャン財団が、どういうところか具体的には知らないが、担当者が寄り添ってくれる人でよかったね。これがなければ、絶望的だったことでしょう。

判決が出た後、父親がカメラ目線になるが、この一瞬が、単なる記録映像を超えて素晴らしい!

ニシャ・パフージャ監督は、現国籍はカナダだけど、インドで生まれ育った女性なんですね。彼女の立ち位置だから実現した映画だろうな、とも思います。ドキュメンタリーを撮るようになった理由がまた興味深く、つまらないフィクションには、半端に手を出さないでほしいなーと感じます。

…それにしても、“ムラ社会”は炎上すると、ゾンビ集団より恐ろしい。そのようにキチンと映像で記録されていることも、本作の白眉でしょう。

日本で有耶無耶にされているレイプ犯罪も、少しずつでも解決に向かってほしいものですが、本作は、小さくとも、その助けになっていけると思います。

<2024.4.3記>
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