青山

数分間のエールをの青山のレビュー・感想・評価

数分間のエールを(2024年製作の映画)
3.8

ミュージックビデオを作ることが好きな男子高校生・朝屋彼方。ある雨の夜に、ストリートで弾き語りをする女性の歌声に感動し、声をかけようとするが逃げられてしまう。落胆する彼方だったが、翌日彼の学校に昨夜の女性・織重夕が英語の教師として赴任して来る。彼方は夕にミュージックビデオを作らせてほしいと頼むが......。


そこそこ推しているフレデリックというバンドが主題歌に抜擢されたので観に行きましたが、とても良かったです!

さて、本作ですが、ヨルシカのMVなどを制作する映像作家集団Hurray!の3人による初の劇場長編アニメで、全編3DCGで作られているのが特徴的です。
また、劇中曲は気鋭のシンガー/マルチクリエイターの菅原圭さんが歌唱を担当(声優は別)しています。
映像に関してはあんま見慣れない3DCGに最初はやや戸惑ったものの、観ていくうちに慣れてきて、終盤の動きのあるシーンではその独特の動きにグッと引き込まれるまでになりました。また、劇中曲がとにかく良くて、MVにまつわる物語なんですが本作自体が「未明」という劇中曲のMVのようにすら感じます。菅原圭さんの低めだけど透き通って憂いも感じさせるボーカルの魅力が凄えし、曲自体もちょっとヨルシカっぽい感じで好みでした!

んでストーリーなんですが、創作をすることの楽しさと苦悩とを描き出した内容になっています。そして苦悩の部分はかなり残酷に描かれているので、終わり方こそ爽やかながらけっこうどんよりした後味も残っています。
主人公の朝屋彼方は最近MVの制作を始めた少年。一方もう1人の主人公の夕は音楽を諦めて教師の道に進んだ女性。かれらの創作への想いの対比は、キャラ名の「朝」と「夕」の対比にも表れています。
彼方が創作を始めたばかりで、浅いところで無責任に気楽に遊んでる姿勢は、序盤で彼が既存曲のMVを YouTubeに載せている(=違法アップロードしている)ところからも分かり、ここで既に彼方への「むむむこいつ大丈夫か???」という気持ちが湧いてしまうのが凄かった。
そして、そんな不安を的中させるように、彼の浅い理解で作ったMVが拒絶されるシーンは、その「何も分かっていなさ」に身に覚えがあるからこそだいぶ苦しくなってしまいました。
私は創作出来ない人間なので根本的に本作が刺さりきらないもどかしさもあるんですが、そんでも高校生の頃に作ってたサイトの内容の酷さなんかも思い出してつらくなりましたよね。なんせ彼方が作っているのが「MV」という、原曲ありきのいわば二次創作なので、創作をする人にも刺さるんだろうけどこうして感想を書くのを生業としているタイプのオタクである私にもちょい刺さるのがズルい。「創ること」と「他人が創ったモノを受容すること」のどちらにも矛先が向いていますからね本作は。
あと、私が「小説書きたい」とか言いながらも全然書けないし書かないのは結局のところ小説を書いて公開することで反応が欲しいという承認欲求以上の「創りたい」というモチベーションとか情念がないせいだと思うんですが、本作でもその辺の承認の問題も再生回数やコメント数などでかなり生々しく描かれていてその辺も食らいました。

まぁでも、正直高校生でそんな他人の苦悩なんかを想像できる方が早熟ではあると思うのでその辺「先生もおとなげないな......」とも思っちまいましたけどね。
でもそこで彼方のダチの外崎くんや、軽音部のギャルの中川萌美ちゃん(この2人も外と中で名前が対になってますね)の存在が際立ってくるわけですね。彼方が「好き」の名のもとに作者の思いと正反対のモノを無邪気に創ってしまったら残酷さと暴力性に対して、外崎や萌美との会話を経て向き合う様は感動的で、いい友達がおってよかったねぇ😭と思った。特に萌美ちゃんの単純さと強さは本作においてかなり救いになってて好きです(単純にベース弾いてるギャルが好きなだけかもしれない)。
まぁでもやっぱ私の推しキャラは夕ですけどね......。『言の葉の庭』とかもそうですけどああいう闇を抱えた女の先生キャラが出て来ると無条件に好きにならざるを得ない。というかあんな先生が赴任してきてハートをぶち抜かれない男子はいないと思う。先生もおとなげないと書いたけど、先生だって私より歳下ですからねたぶん。大人と呼ばれる年齢になってもまだ大人になりきれない不安定さがこれまた20代前半の自分を重ねてしまってつらかった。
70分くらいしかない短い作品で、登場人物も4人だけなんだけど、だからこそこうして1人1人に愛着が湧いてしまい、観終わった後で彼らそれぞれのその後に思いを馳せてしまうようなところも良かったです。

まぁあとやっぱし劇中曲の「未明」がめっちゃいいので、終盤の「未明」のMVのシーンが曲の良さと映像のかっこよさとストーリー上のエモさが一体となって襲ってきてめちゃくちゃ良かったです。でも軽音部のバンドのMVと「未明」のMVでまさにアマチュアとプロのクオリティの差があってこれを同じ彼方が創ったというのはちょっと無理がある気がしてしまった......。「未明」のMVのシーンは一種のイメージ映像で、実際にはもうちょいクオリティ低いんじゃないかという気がしています......。

まぁそんなこんなで、創作との向き合い方をガッツリ描いた本作は、創作無理勢の私にもある意味刺さる作品で、中途半端な気持ちで小説書きたいとか言ってごめんなさいという気持ちになったのでもう小説書くことはきっぱり諦めようと思います!どうせ書けないくせに考えてもストレスになるだけだし......。
青山

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